フランスの燃料増税反対デモとルノー・日産問題をつなぐ背景とは

有地 浩

今、フランス全土がジレ・ジョーヌ(黄色蛍光色のベスト)の抗議デモで揺れている。マクロン政権が来年1月から軽油やガソリンにかかる税金を引き上げようとしているからだ。フランスは日本よりも自動車での移動に依存しており、原油価格が直近は下落傾向にあるものの、依然として昨年比では高くなっている中での増税だ。

フランスを揺るがすジレ・ジョーヌのデモ(NightFlightToVenus/flickr=編集部)

フランスではディーゼルエンジン車の方がガソリンエンジン車より多いが、軽油の価格は1リットル1.46ユーロ(約188円。11月23日現在の全国平均価格)と世界的にもかなり高く、しかもこのうちの60%以上が税金なのだ。フランス革命の歴史を持つ国民が、街頭に出てタイヤを燃やしたり、道路をブロックしたり、様々な破壊行為をするのは、ある意味で、当然のことだろう。

パリのシャンゼリゼ大通りでジレ・ジョーヌが暴れているニュースは、日本でも新聞やテレビで報じられたが、これは日本とは関係のない遠い外国での出来事ではない。この出来事の根底には、ルノーと日産の問題にも密接につながる、フランス政府の大きな戦略があるのだ。

フォルクスワーゲン・グループが不正プログラムを使ってディーゼル車の排出ガス検査をごまかしていたことが暴かれた、いわゆるディーゼル・ゲート事件が勃発したのは、2015年のことだった。それまで、フォルクスワーゲン・グループの本拠地のドイツ政府だけでなく、フランス政府も排出ガス汚染が極めて少なくクリーンなエンジンと言われたディーゼルエンジン車の普及を後押ししていた。

しかしディーゼル・ゲート事件によってNOxの排出量がアメリカの排出基準の最大40倍も出ていることが明るみに出てしまった。自動車産業は、そのすそ野の広さから雇用や経済全体への影響が大きく、フランスでも国の基幹産業となっているため、この青天の霹靂のような事件はフランス政府を大いに驚かせ、自動車産業を守ることが喫緊の課題となったのだ。

この時、オランド前大統領の下で経済大臣をしていたのが、マクロン現大統領だ。

ディーゼルエンジンを見捨てざるを得なくなったフランス政府が選んだ方針は、技術的に既にトヨタやホンダがずっと前を走っていたハイブリッドを飛び越えて、電気自動車への転換を進める政策に急激に舵を切ることだった。

今回の燃料税の引き上げは、当初は軽油の税率を引き上げる一方でガソリンの税率を引き下げて、両者の不均衡をなくすという説明がされていたが、すぐに軽油もガソリンも増税することになり、増税の目的として環境への配慮が前面に押し出されることとなった。政府は2022年に向かって今後さらに化石燃料への課税を強化すると言っており、燃料税が、クリーンなエネルギーを使う車への買い替えを進めるテコのひとつとなっている。

11月8日、ルノー工場を訪れたマクロン大統領を案内するゴーン氏(フランス大統領府動画より:編集部)

マクロン大統領は、2040年にはディーゼル車もガソリン車もフランスで販売されることはなくなると言明したが、こうした中で欧州での電気自動車販売台数第1位の日産リーフを製造し、優れた電気自動車の技術を持つ日産は、単にルノーだけでなく、フランスにとって非常に重要な会社になっている。

マクロン大統領がオランド前大統領の下で経済大臣をしていた2015年には、政府の関与が強まることを嫌っていたカルロス・ゴーンのルノーに対して、ルノー株を極秘に買い増してフランス政府のルノーにおける議決権を2倍にしたが、このようなことをしてまで、政府のルノーへの介入を強めたマクロン大統領の考えの根底には、電気自動車で世界をリードしている日産とルノーの連携をフランス政府の手で強化するという大きな戦略がある。

燃料税の増税についてマクロン大統領は、ジレ・ジョーヌの圧力の前に、石油価格が一定以上上昇した場合は税率を引き下げるという、税収的には多大な犠牲を払うことになる懐柔策を提案してでも、化石燃料に対する増税路線を堅持しようとしている。

ルノー・日産問題では、マクロン大統領はどのような手を打ってくるのだろうか。私もマクロン大統領が学んだ国立行政学院(ENA)に留学して、その卒業生のメンタリティを多少なりとも理解しているつもりだが、彼らは自分の知能に非常な自信を持ち、かつ自尊心が高く、自分の主張をなかなか曲げないところがある。特にマクロン大統領は、エリートが集まるENA卒業生の中でも、さらにエリートしかなることができない財務監察官に採用された経歴を持つ。この誇り高いマクロン大統領が今後ルノー・日産問題にどう対処していくのか、しばらく目が離せない。