ドイツ北部ハンブルクの見本市会場で7日、独与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の第31回党大会が開催され、アンネグレート・クランプ=カレンバウアー党幹事長(56)が党首ポストを辞任したメルケル首相に代わって新しいCDU党首に選出された。
党大会(党代表1001人、男性658人、女性343人)では、メルケル首相が10月29日党首辞任の意向を表明したことを受け、後継者の党首選が実施された。クランプカレンバウアー党幹事長のほか、元下院院内総務で政界を離れて実業界で歩んできたフリードリヒ・メルツ氏(62)、そして第4次メルケル政権の保健相、イエンス・シュパーン議員(38)の3者の間で争われた。
クランプカレンバウアー幹事長は第1回目の投票で第1位だったが、当選に必要な過半数を取れなかったために、第2位のメルツ氏との間で決選投票が行われ、クランプカレンバウアー幹事長が517票を獲得して僅差でメルツ氏(482票)を破った。
この結果、CDUは18年間続いたメルケル党首時代に幕を閉じ、クランプカレンバウアー新党首のもとで党の刷新に乗り出すことになる。メルケル首相は党首を退いても、首相ポストは2021年の任期満了まで継続する予定だが、任期半ばで辞任するような状況が生じれば、新党首は次期首相の最有力候補者となる。
クランプカレンバウアー新党首は、「皆さんの支持を感謝する。未来は我々の手にある。勇気をもって前進していこう」と強調し、党首選でCDU内が分裂するのではないかといった一部の懸念を払拭するために、他の2人の候補者を舞台に呼び、党の結束をアピールした。
新党首はサールラント州の州首相だった今年3月、メルケル首相の強い要請を受けて党幹事長に抜擢された。州首相が党幹事長に就任するというのは異例の人事だ。党員の中にも驚きの声が聞かれた。メルケル首相は党内でくすぶり続けてきた後継者問題を鎮静化するため、クランプカレンバウアー女史を後継者候補に担ぎ出したものと受け取られた。
メルケル首相の後継者と受け取られることは、本人にとってプラスとマイナスがある。ドイツのメディアでは「ミニ・メルケル」と呼ばれてきた。CDU党員の中には18年間続いたメルケル党首時代から脱皮し、新しいスタートを願う声が強いだけに、メルケル首相が選んだ人物を再び党首に担ぎ出すことに抵抗が強かったことは間違いない。そういうこともあって、クランプカレンバウアー幹事長は社会民主党(SPD)との大連立政権に批判的なコメントを発するなど、メルケル色を脱し、独自色を出す努力をしてきた経緯がある。党大会での候補者演説では「私はミニ・メルケルでもコピーでもない。私は3人の子供を持つ母親であり、家庭と職場の両立が難しいことを知っている」と述べている。
メルケル首相に忠実な幹事長が党首選で勝利したことから、「メルケル連立政権が継続される可能性が高まった」と予想されている。対抗馬のメルツ氏が当選していたら、「メルケル首相落としが始まり、SPDとの大連立政権にも亀裂が生じ、早期総選挙の実施といったシナリオが考えられる」と受け取られていたからだ。
新党首が直面する課題は多い。メルケル首相の難民受け入れ政策にCDU内の保守派から強い反発の声がある。CDUの姉妹政党「キリスト教社会同盟(CSU)との関係でも難民対策で不協和音が流れてきた。大連立政権のパートナー、SPDとの連携も決してスムーズとはいえない。反難民、外国人排斥を標榜して躍進してきた極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の動向も無視できないなど、新党首の課題は山積している。
なお、党大会では党首選に先駆けて、メルケル首相が党首として最後の演説をした。メルケル首相は18年間のCDU党首としての歩みを振り返り、これまでの支援を感謝する一方、新党首のもとでの党の結束と連帯を呼び掛けた。メルケル首相の演説が終わると、会場の党代表たちから10分余りのスタンディングオベーションを受けた。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。