「47都道府県の名門高校や新興勢力の現状はこうだ」というタイトルで、「日本の高校 ベスト100」(啓文社書房)の発売お知らせと高校名の発表を行ったところ、非常に多くの方に読んでいただき、また、「どうして」という質問もいただいたので、その選考の基準と理由を解説しておきたいと思う。
すでに、上記の記事でも書いたように、本書は、全国から名門高校を、歴史的な価値のみならず、現在の状況や、将来の見通しも考慮して、まず113校を選び、その中から、歴史はあるが、現状は名門校と呼ぶにはやや不満な進学状況の高校や特殊な高校を除くなどして、100校を選び、残り13 校は「番外」とした。
選考では、47都道府県から公立高校を最低でも1校は選んだ。その県の全体的な状況と教育史を語るには、不可欠だからである。
原則としては、「旧制一中的な学校」(以下、「旧一中」と略す)を取り上げている。ただし、旧一中よりかなり長期にわたって実績を上げている高校がほかにあり、かつ、その県から公立高校を1校しか選べなかった場合は、その実績を上げている高校の方を取り上げている。
また、浜松工業高校(静岡県)、八幡商業高校(滋賀県)、浦和第一女子高校(埼玉県)、鴨沂高校(京都府)、米沢興譲館高校(山形県)などは、それぞれ、工業高校、商業高校、旧制高等女学校、西日本に多い新制の公立女子高校、藩校から断絶なく伝統を引き継いでいるまれな高校の代表として取り上げた。日本最大の高校ということで作新学院(栃木県)も選んだ。
女性の方や女子の両親などにも参考になるように、女子高を同種の書籍に比べて多く選んでいる。
また、進学状況は、ここ数年の状況を総合的に判断するとともに、それが今後も安定していそうかも考慮している。また、東京大学だけでなく、京都大学や地元の旧帝大、あるいは有力地方大学の数字も考慮している。また、最近は東京大学・京都大学・医学部などといわれるように、医学部への進学実績が世間の関心事項になっているので、それも考慮している(医学部の偏重は良いことと思わぬが)。
それでは、各都道府県に見ていこう。(*は番外。①は旧制一中。)
(北海道)札幌南①・北嶺
北海道では札幌南と函館中部が同時に設立されたが、やはり道内最有力公立校は札幌南だ。北嶺は新興だが私学のナンバーワンとしての地位を確立。
(青森)弘前①
弘前、青森、八戸が拮抗しているが、旧一中でもある弘前の伝統を優先した。
(岩手)盛岡一①
いうまでもなく岩手では図抜けた存在。軍艦マーチに似た校歌も有名。
(宮城)仙台一①・仙台二
仙台二高が通学地域の設定もあって仙台一高を上回る進学実績だ。
(福島)福島・*会津
安積が旧制一中だが進学実績やOBの多彩さで福島を選んだ。会津は会津藩の歴史を受け継ぐ独特の歴史に注目。
(秋田)秋田①
(山形)山形東①・*米沢興譲館
米沢興譲館は藩校からの歴史を比較的ストレートに引き継ぐ。
(茨城)水戸一①・土浦一
筑波学園都市の立地もあり、土浦一がトップに。
(栃木)宇都宮①・*作新学院
作新学院は日本一の生徒数。
(群馬)前橋①・高崎
中曽根・福田両首相も高崎の卒業生。
(埼玉)浦和①・*浦和第一女子
東日本ではいまも男女別学が多いが浦和第一は公立女子高として高い実績。
(千葉)千葉①・渋谷幕張
いまや麻布を抜くとしたら渋谷幕張といわれる。
(東京)日比谷①・西・戸山・筑波台付属・筑波大駒場・麻布・開成・早稲田学院・*学習院・桜蔭・ 雙葉&田園調布雙葉・女子学院・創価
公立から実績で三校。国立では学芸大付属もあるが二校に絞る。麻布と開成は私立受験校の両雄。早稲田系では早稲田学院が早大進学の王道。学習院の卒業生の重要性はいうまでもない。桜蔭・ 雙葉&田園調布雙葉・女子学院は女子高の三大名門。創価は日本最大の宗教集団のエリートを育てる。
(神奈川)湘南・栄光・聖光・フェリス・慶應・日本女子大
一中は希望ヶ丘だが、実績と現状で湘南。栄光と聖光はともにカトリック進学校。フェリスは最古の女子高のひとつ。慶應は日本一のお坊ちゃん学校。日本女子大は日本を代表する女子大の付属であることを重視。
(山梨)甲府南
一中は甲府一だが通学区の設定などの理由で甲府南がナンバーワンとなって久しい。
(長野)松本深志①・長野
県南・県北の二雄として並び立つ。
(新潟)新潟①
(富山)富山中部、高岡
一中は富山だが進学実績で富山中部が水をあける。この二校に高岡を入れて三強。
(石川)泉ヶ丘①、金大附属、
金沢には終戦直後に第三の高等師範ができて、その付属として創立。
(福井)藤島①
藤島に続くのは高志と武生。
(静岡)静岡①・浜松北・*浜松工
浜松では進学校の浜松北のほかに全国の工業高校の白眉である浜松工業も選んだ。
(愛知)岡崎・旭丘①・東海・金城学院
公立の二強に、私立のナンバーワン、それに名古屋を代表する女性校。
(岐阜)岐阜①
(三重)四日市・高田
一中は津だが、津市内ではむしろ私立の高田が優位。
(京都)洛北①・*鴨沂・堀川・洛星・洛南・同志社
鴨沂は最古の公立女学校のひとつ。堀川は公立復興の旗手。洛星はカトリック、洛南は真言宗で私立の二強。同志社は関西の慶應的存在。
(滋賀)彦根東①・膳所・*八幡商
膳所は京大進学者数では公立のトップクラス。八幡商業は商業高校の代表。
(大阪)北野①・天王寺・大手前・三国ヶ丘・大阪教育大付属・清風&清風南海・四天王寺
北野・天王寺・大手前・三国ヶ丘は公立の四強。大阪教育大付属は三校の集合体。私立からは星光もあるが、清風学園の歴史と総合力を優先。四天王寺は東の桜蔭と並ぶ女子受験実績。
(兵庫)姫路西①・神戸・灘・甲陽・神戸女学院
戦前の神戸は全国トップクラスだった。灘は東大、甲陽は京大に強い。神戸女子学院は進学実績を公表してないが、驚くべき数字と言われる。
(奈良)畝傍・奈良女付属・東大寺・西大和
一中は郡山だが、現在は奈良が公立トップ。しかし、ユニークな歴史と卒業生の多彩さ、それに奈良市内集中を避けて畝傍。老舗の東大寺と新興の西大和は教育方針も対照的。
(和歌山)桐蔭①・智辯和歌山
野球でも有名な智辯和歌山だが、進学でもナンバーワン。
(岡山)岡山朝日①
(広島)*広島中等教育校・広島大付属&同福山・修道・広島学院
県立は一中の国泰寺も含めて全滅。広島は中高一貫市立で注目株。広島大には二つの付属が。修道は老舗だがカトリック系の広島学院が中国地方のナンバーワン。
(山口)山口①
(鳥取)*鳥取西①
県内ではダントツだが、東大・京大の実績が少なすぎるので番外。
(島根)松江北①
(香川)高松①
(徳島)*城南①・徳島文理
徳島文理は医学部に実績。公立はどんぐりの背比べ。
(高知)追手前①・土佐
公立は不振。土佐は高校野球の全力疾走でも知られる。
(愛媛)松山東①・愛光
愛光はカトリックで四国のナンバーワン。
(福岡)修猷館①・小倉・久留米大付設
修猷館・福岡・筑紫が丘が市内で拮抗。地理的バランスで小倉。久留米大付設はOBに孫正義、ホリエモン。
(佐賀)佐賀西①
(長崎)長崎西①
(熊本)済々黌①・熊本
東大や九大は熊本だが、熊本大学では済々黌で、地元ではOBが優勢。
(大分)大分上野丘①
(宮崎)宮崎大宮①
(鹿児島)鶴丸①・ラサール
ラサールはカトリック系で九州の私立ナンバーワン。
(沖縄)*首里
昭和医大付属がナンバーワンだが、ベスト100に選ぶには実績不足。公立でも図抜けた高校がなく旧制一中の首里の歴史に敬意を表した。