北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が今年6月12日、米朝首脳会談に応じた狙いは米国から体制を保証してもらうことだった。年初、金委員長は「米国の全域がわれわれの核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンは私の事務室の机に常に置かれている」と脅迫したが、米朝首脳会談に応じたのは米国に降伏したのに等しい。
北朝鮮はこれまで、6カ国協議を通して周辺国を核問題に引きずり込んできた。核問題について6か国が共に責任を担うという外交トリックによって、中国とロシアを関与させ米国の圧力を緩和してきたのだ。
しかし、米朝首脳会談に応じることによって北核問題は6カ国から米朝2国間の問題に変わった。これこそ、北朝鮮外交の大失策である。中国とロシアが北核問題に関与する名分が弱くなり、巨人(米国)とのケンカを仲裁してくれる有力な勢力を自ら退ける結果を招いたのだ。
今は文在寅大統領の韓国が積極的に仲介の労をとっているが,米国の同盟国なので自ずと限界があるの明らかだ。
米国では、先の中間選挙の結果、野党の民主党がトランプ政権に対北強硬路線を促がす構図が生まれた。民主党は米人学生ウォームビア氏の拷問死や10万人政治犯収容所の人権問題について,より強い対応を政府に求めている。さらに、頼みの綱の中国も、米国との全面的な貿易戦争を回避するため、90日間の“休戦”の見返りとして対北制裁の強化を約束した。
昨年4月、米中首脳会談の真っ最中にシリアを空爆したのは、中国への警告だった。今年4月、米、英、仏連合軍のシリア空爆に際し、現地のロシア駐屯軍と中国軍は反撃できなかった。米国との戦争に巻き込まれたら自国の経済が崩壊する恐れがあるためだ。
トランプ大統領は2年後の再選を狙っている。金委員長にとっては存亡の危機となるだろう。1991年の湾岸戦争はブッシュ大統領(父)の支持率を89%まで上昇させ、2003年のイラク戦争はブッシュ大統領(子)の支持率を86%に上昇させた前例がある。金委員長は体制維持のため核を手放さないが、逆に核にこだわることが体制崩壊の火種になっている事が分かる。たとえ金委員長の訪韓が実現しても、非核化抜きの平和演出は意味がないのだ。
※本稿は『世界日報』(12月12日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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