フランス北東部ストラスブール中心部のクリスマス市場周辺で11日午後8時ごろ、29歳の男が市場に来ていた買い物客などに向け、発砲する一方、刃物を振り回し、少なくとも3人が死亡、12人が負傷したが、容疑者は犯行現場から逃亡。容疑者の行方を追っていた警察当局は13日午後9時、同市中心部から南2キロのノイドルフ地区の路上を歩いていた容疑者を見つけ、撃ち合いの末、射殺した。事件は2日余りで容疑者の射殺で幕を閉じたが、テロ対策関係者に多くの教訓を残した。
クリストフ・カスタネ―ル内相は、「容疑者を発見し、射殺した」と公表すると共に、「容疑者の家族を含む友人・知人関係者5人の身柄を拘束し、捜査を進めている」ことを明らかにした。
男の名前は シェリフ・シェカット(Cherif Chekatt)、 ストラスブール生まれ、180センチ、頭髪は短く額には傷跡がある。北アフリカ系。犯行時に警察隊に腕を撃たれたが、逃亡中だった。メディア報道では、容疑者が隣国ドイツに逃げ込んだ可能性があると報じられていた。そのため、フランス警察はドイツやスイス両国の警察にも犯人のプロフィールを連絡し、行方を追ってきた。
クリスマス市場襲撃テロ事件といえば、2016年12月のベルリンのクリスマス市場襲撃事件を思い出す。ドイツの首都ベルリンで同年12月19日午後8時過ぎ、大型トラックが市中央部のクリスマス市場に突入し、12人が死亡、48人が重軽傷を負った。「トラック乱入テロ事件」の重要容疑者、チュニジア人のアニス・アムリ容疑者(24)は逃亡。同月23日午前3時頃、イタリアのミラノ近郊で警察官の職務質問を受けた際、銃撃戦となり、イタリア警察官に射殺された。同テロ事件は発生から4日後、重要容疑者の射殺で幕を閉じた。
公開された容疑者のプロファイルによると、アムリは178センチ、75キロ、髪は黒く、目は茶色。2011年、チュニジアからイタリアに入り、放火と窃盗などの罪状で4年間余り、刑務所生活。ドイツに入った後、国内を転々としながら、16年2月からベルリンに住んでいた。同年6月、難民申請したが、却下されている。
ドイツの「トラック乱入テロ事件」のアムリと「ストラスブール乱射事件」のシェリフ・シェカットには類似点が少なくない。両者とも20代の若者であり、刑務所生活をしていることだ。前者はドイツに移住する前にイタリアで、後者はフランスに送還される前はドイツで、それぞれ刑務所生活を体験している。そして容疑者は刑務所でイスラムの過激主義に染まった可能性が指摘されている。ちなみに、シェリフ・シェカットは2016年、ドイツで2度、家宅侵入窃盗で逮捕され、2年3カ月の有罪判決を受けたが、1年後(昨年)、フランスに送還された。
シェリフ・シェカットは犯行時「アラーは偉大なり」(Allahu Akbar)と叫んだという目撃者の証言がある。ちなみに、イスラム過激テロ組織「イスラム国」(IS)は13日、シリアのIS系アマク通信(Amak)を通じてストラスブールのテロ事件の犯行声明をした。ただし、シェリフ・シェカットがISと関係があったかは不明。
シェリフ・シェカットはフランス警察ではよく知られていた人物だ。29歳で前科29犯。実際、2013年から15年、危険人物リスト(Fiche S)に掲載されていた。「FicheS」リスト(英語「S」card)は2年ごとに新たに更新される。「S」は国家の安全(State Security)を意味する。国家の安全を脅かす危険人物というわけだ。
興味深い点はシェリフ・シェカットは犯行直前、携帯電話にドイツから電話があったが取らなかったことだ。誰が、なぜ、犯行直前の容疑者に電話をかけたかについて、さまざまな憶測が流れている。シェリフ・シェカットがドイツに住んでいた時、イスラム過激派グループと接触していた可能性が浮かび上がってくる。
欧州テロ対策関係者は、「クリスマス市場がイスラム過激テロのターゲットとなる危険性は高い」と要注意を呼びかけている。なお、ストラスブール警察当局によると、事件発生後、閉鎖されたクリスマス市場は14日から再びオープンされるという。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。