欧州社会は目下、クリスマスシーズン真っ最中。クリスマス市場には多くの人々が店のスタンドを覗きながら、シナモンの香りを放つクーヘン(焼き菓子)やツリーの飾物を買ったり、クリスマス市場で欠かせない飲物プンシュ(ワインやラム酒に砂糖やシナモンを混ぜて暖かくした飲み物)を飲みながら友達や家族でわくわくしながらクリスマスまでの準備期間を過ごす。至る所からクリスマスソングが流れてくる。フランス北東部ストラスブールのクリスマス市場でテロ事件が起き、死傷者が出たばかりだが、欧州各地のクリスマス市場はテロの恐れなどものとはせず、活気に溢れている。
ところで、ローマン法王フランシスコが大好きなクリスマスソングをご存じだろうか。バチカン放送が13日報じたところによると、オーストリアで作詞作曲された「きよしこの夜」(Stille Nacht)だ。この曲が誕生して今年で200年を迎えた。それを記念して「きよしこの夜」発祥の地で先月からイベントが盛大に開催されている。
オーストリアのカトプレス通信によると、「きよしこの夜」が誕生したオーストリアのザルツブルク州では200年祭委員会が2014年に設置され、記念祭の準備が始まった。200年祭委員会のミヒャエル・ノイライター会長は当時、「『きよしこの夜』が生まれた由緒ある場所の背景や経緯、メッセージをまとめた記念祭としたい」とその抱負を語っていた。その祝いの年が到来したわけだ。
「きよしこの夜」は、ザルツブルクの聖職者ヨゼフ・フランツ・モーア(1792~1848年)が1816年に作詞し、2年後の18年、オーベルンドルフのオルガ二ストのフランツ・クサーヴァー・グル―バー(1787~1863年)がその詩に曲を付けたもので、聖ニコラウス教会で初演された。世界300以上の言語で歌われている。クリスマス・イヴの前日、教会のオルガンが壊れたため、モーアの要請を受けてグルーバーが急遽、ギターで伴奏できる讃美歌を作曲したのが「きよしこの夜」の誕生となった、といわれている。
「きよしこの夜」が初めて歌われたザルツブルク州のローマ・カトリック教会フランツ・ラクナー大司教は200年祭委員会設置後、「『きよしこの夜』がザルツブルクで生まれ、世界中で歌われていることは誇りだ。この歌が世界の平和を促進するものであってほしい」と述べている。ちなみに「きよしこの夜」の詩は6節から成り立っているが、多く人々は通常、1節、2節、そして3、4、5節を飛ばして6節を歌う。
クリスマスに口ずさむ多くのクリスマスソングは米国生まれがほとんどだ。米国のクリスマスソングに乗って、サンタクロースが欧州にやってきて、子供たちにプレゼントを運ぶが、最近はアマゾンがサンタクロースに代わってプレゼントを配っている。一方、「きよしこの夜」は欧州で生まれ、欧州人が作詞作曲した数少ないクリスマスソングというわけだ。
クリスマスイブには「きよしこの夜」200年祭を祝って日本からも多くの旅行者がザルツブルク州の発祥地教会などを訪問するものと予想され、静かな夜というわけにはいかないかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。