12月18日と19日に開催されていたFOMC(米連邦公開市場委員会)でアメリカは今年4度目の利上げを決めました。これでFF金利の誘導目標が2.25-2.50%の幅となります。引き上げに対する市場の事前予想は75%程度の確率でこの引き上げは事前にほぼ織り込んでいました。むしろ、2019年以降をどう捉えるのか、こちらへの興味が9割方を占めていたと言えます。
トランプ大統領をはじめ、各方面からFRB(連邦準備理事会)は常軌を逸しているとか、途方もない金融政策に驀進している、と指摘され、パウエル議長には厳しい視線が集まっており、ひょっとすると利上げを3カ月ずらすのではないか、という淡い期待すら全くなかったわけではありません。
ではどうだったか、結論からするとパウエル議長は細い平均台を辛うじて渡り切ったというのが私の実感です。今回の声明では経済の見通しをシフトダウンしています。特に注目された表現が「some further gradual increases in the target range for the federal funds rate will be required」であります。このsomeという単語が今日の動きの全てとしても過言ではなく、2019年の利上げペースをそれまでの3回程度の見込みを2回に引き下げ、2020年に更にもう一度上げれば利上げ局面は終了というニュアンスと解釈されました。
一方で中立的と思われる政策金利水準も3.0%から2.75%に引き下げており、現実的には2019年にあと一度利上げすれば届いてしまうところにあるとも言えます。つまり、ここに若干の矛盾があり、予想通り19年と20年に合計3度上げると3.25%になってしまい、中立金利水準と整合性がなくなってしまうのです。よって現実的には利上げはあと1度、あっても2度という感覚かと思います。
この発表を受けたNYの株式市場は暴落に近い下落をしています。理由は「FRBは19年もまだ利上げするつもりだ」という非難や悲鳴に近い売り込みであります。一方の為替は発表と共に利上げを素直に受け止め、ドルが売られ円は一気に50銭ほど円安に振れましたがその後、再び円高に向かい落ち着きどころを探している状況です。市場はこの次の展開を伺っているという感じに見受けられます。
2019年びっくり予想がポツポツ出てきていますが、デンマークのサクソ銀行はトランプ大統領がパウエル議長をクビにする、という予想を出しています。トランプ大統領も今日は黙ってはいない気がします。ということは来年にパウエル議長はより細くなった平均台を渡らなくてはいけないことになりそうです。
たぶんですが、FRBが持つデータと市場参加者の実感に明らかなずれが生じている、というのが私の思うところです。FRBは論理性と分析力をもって金融政策を推し進めていますが、パウエル議長は頑固で一度決めたレールはよほどのことがない限り見直さないスタンスかもしれません。
しかし、パウエル議長の立ち位置はかつてのバーナンキ議長の緩める一方の金融政策、イエレン議長の量的緩和からの脱却と平常化に向けた地ならしの役割に比べて、ブレーキを踏む役割だけにそれを踏み過ぎれば電車が急ブレーキをかけて人が押し倒されるのと同じで非常に難しいかじ取りを要求されます。
個人的にはこの局面はパウエル議長ではなく、やはりイエレン議長がそのまま継続して議長をしていればもう少しスムーズだったと思います。彼女は市場との対話能力はグリーンスパン以降の近年の議長ではベストでした。その点の人事責任はトランプ大統領にあると言えましょう。
今日も大きく失望売りを誘いましたが、金利上昇局面が終わりに近いというシグナルは伝わっているはずで徐々に見直しが入ると期待しています。ちなみに10年国債は2.778%程度でこの発表後に下落、恐怖指数は上昇、為替は対ユーロを含め、きっかけ探しの状況であります。
アメリカの好景気に沸いた長いサイクルももしかするとそろそろ終わりに近い、ということかもしれません。労働市場はひっ迫、利上げは不動産、自動車販売、学生ローンには厳しい状況です。ちなみにカナダも最新の見込みでは来年半ばまでは利上げはなさそうだ、というスタンスになってきており、2019年は本当の意味での経済的な中立の年となりそうな気がします。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2018年12月20日の記事より転載させていただきました。