誰も3K労働を好んでやらない
現在人手不足が騒がれている。政府もいわゆる外国人労働者に関して、拡大政策を行う方向である。期限を5年程度に区切って、一時的な対策だと主張している。しかし、過去の日本の政策を見る限り、最高裁で明確な憲法違反の判決が下された「外国人への生活保護」やいわゆる在日問題など、ほとんどが結果的に利権となって恒久化している。
確かに、介護、建設・工事などの分野で「人手」が足りないのは事実である。しかし、それは単純に「厳しい労働に対して給与が安い」からに過ぎない。例えば、介護や建設などの分野の給与を3倍とか4倍(現在年収400万円であれば1200万円~1600万円)にすれば、現在事務職をしている人々からも応募が殺到して、あっという間に人手不足など解消する。
外国人労働者も「きつい」仕事を好んでやるわけでは無い。母国の賃金(物価)水準に換算すれば、数年働けは御殿が建つような高給に惹かれてやってくるに過ぎない。
だから、外国人労働者にとって日本は「仕事場」にしか過ぎない。地方から東京にやってくる出稼ぎ労働者の心が故郷にあるのと同様に、外国からやってくる出稼ぎ労働者の心も母国にある。
もちろん、それは心情的に理解できるが、日本にやってくる外国人労働者(移民)の多くが(一部を除いて)、日本に恋い焦がれて「日本人」になりたくてやってくるわけでは無いということは重要だ。
欧米の移民問題の本質も、移民先の法律やルール、そして文化を尊重し順守する気持ちを移民(外国人)たちが十分に持たないことにあるといえる。
日本人は異邦人に寛容である
よく日本は「島国根性」で排他的であるというが、「おもてなし」という言葉にも代表されるように、たぶんどんな国の人々よりも「他人に親切」である。
例えば、渥美清演じる「フーテンの寅さん」。日本全国各地、どこに行ってもあたたかく迎えられ、心温まる交流が繰り広げられる。
また、漫画・アニメの中に、私が「居候漫画」と呼ぶ一大ジャンルがある。「オバケのQ太郎」に始まって、「ど根性ガエル」(居候するのはシャツの中だが・・・)「ドラえもん」さらには、地球侵略を目指す宇宙人が居候(家の地下だが・・・)する「ケロロ軍曹」に至るまで、異邦人をおもてなしし、快く居候させるのが日本の文化である。
これは、日本という国が諸外国に比べれば歴史的に平和(戦後70年間はもちろん、江戸時代の300年近く、海外との戦争を行わなかった)であったことが大きな原因であろう。
逆に、欧米の映画やドラマでの「訪問者」の描き方は恐ろしい。1939年に最初に映画化され、1981年のジャック・ニコルソン主演の4度目の映画化が印象的な「郵便配達は二度ベルを鳴らす」はもちろん、最近でもキアヌ・リーブスが主演した「ノック・ノック」(2016年)や「ザ・ギフト」(2015年)に至るまで「訪問者」には気を付けろというメッセージが満載だ。
日本人同士の中では「居候漫画」のようなほんわかした世界を実現できても、外国人たちは異なった文化の中で育っている。
やみくもに外国人を受け入れたり、安易に移民政策を推進したりすることは決して行ってはならない。
高度成長期の人手不足が日本をロボット大国にした
高度成長期にも現在と同じ人手不足が叫ばれ、中学卒業生は「金の卵」と呼ばれ、激しい争奪戦が起こった。この時に日本は外国人労働者を基本的に受け入れず、ロボット化・自動化で乗り切った。
現在ファナックや安川電機などを筆頭に、日本のメーカーが工場用ロボット(機械)で圧倒的なシェアを誇っているのも過去の人手不足の際に移民や外国人労働者を受け入れず、自動化・ロボット化の努力を最大限に行ったからである。
逆に、当時は安価で豊富な資源だと思われていた外国人労働者や移民を大量に受け入れ、ロボット化・自動化を怠った欧米は、製造業が衰退しただけでは無く、巨額の社会的コストというつけを払わなければならなくなってきている。
今回の人手不足においても、経営者たちが政府に泣きついて外国人労働者を受け入れさせようとするのは、社会にとって大きなマイナスである。外国人労働者や移民が後々、日本にとっての大きなコストになるのももちろんだが、経営者が怠けて自動化・省力化・ロボット化が遅れれば、日本は競争に取り残される。
例えば、低価格の飲食店ではタブレットによる注文が普通になってきているが、これは「適応」の好例である。
銀行窓口や営業の現場でもタブレット端末による省力化が急速に進んでいる。さらには、介護の現場でも、センサーやGPSをフル活用した見守り、監視サービスやアシスト・スーツによる重労働からの解放も行われつつある。
また、パラマウントベッドは医療用ベッドの大手だが、最近同社が発売する新製品には各種センサーが搭載され、まるで医療用機器のようになりつつある。
工場の自動化・ロボット化が必然であったように、これまで日本では特に生産性が低かったサービス産業において自動化・省力化が急速に始まりつつある。
海外での(工業用)ロボットの使用は、自動車産業が中心だが、日本では電子部品産業においても同じくらいの規模がある。すそ野の広いニーズに幅広く対応してきたことが、日本をロボット大国にしたのだ。
せっかく「人手不足」に背中を押されてこれまで他の先進国と比較して極端に生産性が低かったサービス産業において省力化・自動化が進んでいるのに、怠慢な経営者と政府が“安い人間”を輸入し、その流れを止めるようなことがあってはならない。
政府が行うべきは、人手不足を解消すべく省力化・ロボット化で立ち向かおうとしている企業の支援である。
「トコトンやさしいロボットの本」は、我々が目指すべき「ロボット化」がどのようにあるべきなのかを考察する上で、極めてわかりやすい入門書である。
ちなみに、本書にもあるように、製造業のロボット化によって各メーカーの雇用は増えた。海外に工場が移転する前までの、日本の各メーカーの成長を見れば明らかである。
例えば、溶接のような過酷な環境で行う仕事がロボット化されても、それらのロボットを開発・管理する人間が増えるのである。また、新製品の開発やマーケティングを行う人間も増強される。
サービス産業におけるロボット化においても、同じように雇用の総数は増えるのではないかと考えている。
★本記事は人間経済科学研究所HP掲載の「トコトンやさしいロボットの本」の書評を加筆・修正したものです。
大原 浩(おおはら ひろし)国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
1960年静岡県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替、インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行に移り、金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。1994年、大原創研を設立して独立。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を創設。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)など。