“ハンガリー式”労働者不足対策

東欧のハンガリーで今月12日、同国国民議会が改正労働法を採決し、雇用者側が労働者に要求できる残業上限を従来の年間250時間から400時間まで許容されるようになった。それ以来、同国各地で野党や労働組合が反対デモを繰り広げ、「改正労働法は労働者を奴隷のように働かせる悪法だ」と糾弾、改正法案を「奴隷法」と呼び、強く反対している。国民議会前で警察隊とデモ参加者の衝突も起きている。

反オルバン政権デモ、2018年12月15日(ハンガリーの野党「社会党」公式サイトから)

21日にも首都ブタペストで約5000人が参加した反対デモが行われた。反対デモはブタペストだけではなく、北西部シェール市やデブレツェン市など他の都市にも波及してきた。それに先立ち、同国のアーデル・ヤーノシュ大統領は20日、改正労働法案に署名し、同法は正式に成立したばかりだ。

AFPの報道によると、「セゲド市とシャルゴータルヤーン市の議会は21日、労働者の反対を考慮して改正労働法を施行しない決議案を可決している」というから、中道右派政権オルバン政府の政策に対しては賛否があるわけだ。ちなみに、同国では19日、約2300人の警察官が過去3年間の約5万時間の残業代未払い分の支払いを要求する公開書簡を発表している。

オルバン政権は「企業や工場で労働者不足が深刻となってきている」と説明する一方、残業が増えることで労働者の手当てが増えるなどメリットも出てくる、と理解を求めている。労働組合はクリスマス明けの新年早々にも「奴隷法」の撤廃を要求するゼネストも辞さない構えだ。

ところで、労働者不足はハンガリーだけではない。先進諸国で等しくみられる状況だ。少子化、人口減少に直面し、不足する労働者をどこから補給するかが大きな課題となっている。

例えば、日本の場合、労働者不足を解決するために外国人労働者の受け入れ枠拡大、それに関連して出入国管理法の改正案が成立したばかりだ。建築業界、介護業、外食業界などにとって外国労働者の受け入れはもはや緊急の課題である。ただし、外国からの人材受け入れ問題は、人材不足の解消だけに制限される問題ではなく、外国人の増加に伴う治安問題、言語の問題から社会慣習の軋轢などさまざまな問題が浮かび上がってくる。外国人労働者の受け入れを促進するためには、社会全体の受け入れ態勢の整備が急務となる。

一方、オルバン政権の場合、難民・移民の受け入れを拒否、外国人材の受けれには積極的ではないこともあって、労働者不足は国内の既成労働者の就業時間を増やす以外に早急な解決の道はない。

興味深い点は、オルバン政権と同様、難民・移民の受け入れに厳格なオーストリアのクルツ政権は一日の労働時間を従来の8時間から最大12時間まで延長を認める政策を施行したばかりだ。その結果、ハンガリーと同様、野党の社会民主党(SPO)や労働組合が強く反対している。彼らは労働時間の短縮を要求する一方、労働不足については実行可能な代案を提示できないでいる。

オーストリアの場合、厳密にはハンガリーと日本の政策の併用というべきかもしれない。ある一定の外国人労働者を受け入れる一方、資格の乏しい移民の受け入れを制限するわけだ。

まとめると、労働者不足の解決策として、①ハンガリーのように、超過労働時間の大幅な上限拡大を認める、②日本のように外国人材の受け入れ枠を拡大し、不足を解消する。③オーストリアのように①と②を併用する、などが考えられる。

どの政策がベストかはその国の産業規模や社会・文化の違いもあって一概には言えない。繰り返すが、労働者不足は、単なる産業界の発展に伴う経済的理由だけではなく、「少子化」、「家庭の崩壊」など先進諸国が直面している社会問題と密接に絡んでくる大きなテーマだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年12月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。