昨年、米朝間は戦争前夜を彷彿させるほど緊張が高まったが、今年6月の首脳会談を境に緊張緩和ムードに転じた。しかし、11月の米中間選挙の後、両国の非核化交渉は膠着状態に陥り、再び緊張が高まる状況を呈している。それでも、トランプ米大統領は余裕満々のスタンスである。
トランプ氏が金正恩朝鮮労働党委員長の親書をもらって気軽に首脳会談に転じた背景には、北朝鮮が「中国の覇権を抑える米国の外交路線に前向きに協力する」と約束した可能性が考えられる。即ち、北朝鮮は米国の覇権を脅かす中国を封じ込めたい米国の本音を突いて、自ら「米国の味方になる見返りとして、CVID(完全かつ検証可能,不可逆的な非核化)より段階的な非核化を配慮してほしい」と要請した可能性を否定できないのだ。「国際関係には永遠の友も、永遠の敵もいない。自国の利益だけが永遠だ」という外交名言の通りだ。
北朝鮮はこれまで中国に頼る経済だったが「借金だらけの開発途上国の経済構造」である中国側に関わると,永遠に貧乏国を卒業できない厳しい現状を見抜いている。ロシアの経済規模も韓国の半分にすぎない。
北朝鮮は今日まで中国とロシアの間で二股外交路線を採ってきたが,今度は中国と米国に対して二股外交路線を採ろうとしている状況が垣間見られる。世界最大の産油国・エネルギー大国に生まれ変わった超強大国アメリカが二度もシリア空爆を行っても現地の中国軍とロシア駐屯軍は米国に対抗できなかった。
その理由は、米国との戦争に巻き込まれたら自国の貧しい経済が破綻してしまう危険性があったからだ。
北朝鮮の生き延びる道は、米中両国の狭間から親米国家に生まれ変わる以外にない。米国による北朝鮮の体制保証と「北朝鮮の非核化」をバーターして新しい米朝関係をつくろうという米朝会談の合意が、その道を示している。
最近韓国では、北朝鮮が同盟関係に近い親米国家に生まれ変わる場合、米国は北朝鮮の核保有を「暗黙の了解」で認める可能性もあり得ると主張する一部学者も出てきた。イランと中国の核を牽制するため、親米国家のイスラエルとインドの核保有を黙認するのと同様だとの論理だが、米国の非核化意思と北の核を絶対に容認しな
い日本の存在を忘却した空論だ。
北朝鮮の核保有は日本をはじめ韓国、台湾の核武装に名分を与えるのみであるからだ。日、韓、台湾の核武装こそ、中国が最も怖がる最悪のシナリオだ。従って、中国は北朝鮮の非核化に前向きに舵を切るのが求められる。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授)
※本稿は『世界日報』(12月25日)に掲載したコラムを筆者が加筆したものです。
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