大阪府の松井一郎知事と、大阪市の吉村洋文市長が、公明党に対し、かねてから協力を求めてきた大阪都構想の住民投票実施に目処が立たない場合、それぞれ辞職し、知事選と市長選を来年4月7日の統一地方選にぶつける意向を伝えたことが24日、明らかになった。
毎日新聞が同日朝刊で特報し、大阪政界とメディア関係者をざわつかせたものの、当初は、公明党に対する「揺さぶり」と見る説もあった。しかし、午後になり、松井氏と吉村氏が記者会見して「ありとあらゆる選択肢がある」(松井氏)と述べ、各メディアも一斉に追いかけたことで、知事選、市長選のダブル選に、さらに府議選、大阪市議選のダブル選を掛け合わせた「2×2=4」のクアドラプル選の可能性が強まったように見える。
アゴラでも維新所属の柳ヶ瀬裕文都議がノリノリで「捨て身の闘い」と書いており、決戦の前倒しが決まったかのようなムードが出始めているが、公明党の出方次第でどうなるか、いま少し注視する必要はあろう。
ただし、空中戦の効果という点では、選挙戦のアジェンダを早期に設定して優位に戦いを進める意義はある。もし本当に“クアドラプル”選になれば、「橋下抜き」で初めて戦うことになる統一選に向けてカンフル剤になろう。
「出直し選挙」では来冬の任期は変わらず、また選挙に
一方で疑問が生じるのは、辞職したとしても、松井氏、吉村氏がそれぞれ知事選、市長選に出直しで立候補するのかどうかだ。
仮に2人がそれぞれの選挙で勝利したとしても、公選法の規定により、出直し選当選の場合は、任期が現在と同じ来年11〜12月までで変わらず、選挙を行うことになる。「身を切る改革」を党是にする維新が、府知事選と市長選で計20数億はかかるとされる選挙費用を1年に二度も捻出するというのは、なんだか具合が悪い。
実は以前から東京でも政界で取りざたされているのは、吉村氏が知事選に転出し、松井氏は国政への転身を目指し、維新の府議などから市長選に候補者を出すというシナリオだった。万博開催決定直前に書いたエントリーで、万博招致に失敗した場合の奇襲戦法があると書きながら、ここまで執筆時間が取れずに中身を紹介できなかったが、その奇襲戦法の一つが、まさに「吉村氏が知事選、松井氏は国政選」だった。
なお、もう一つは松井氏と吉村氏をたすき掛けで、松井氏が市長選、吉村氏が知事選に出るというシナリオも取りざたされていた。奇襲としてはこちらの方が色濃い。しかし、松井氏が大阪での知名度があるとはいえ、本来の政治的地盤が八尾市(府議時代の選挙区)だったことを考えると、やや現実味に欠ける印象もあった。
吉村氏が知事選に回った場合、大阪維新の会旗揚げ期の22人の府議の一人で、現在は衆議院議員に転身した井上英孝氏(大阪1区)らの名前も聞く。
松井氏は参院選に回るのか?
そして松井氏が国政選に打って出る場合、井上氏とのトレードで大阪1区に回ることも考えられるが、衆議院は来年秋に任期4年の折り返しをようやく迎えるところで解散の時期は不透明だ。そうなると、4月の選挙のあと、来年の参院選に出馬が有力なのではないか。
ただし、参院選の大阪選挙区(定数4)に出る可能性は薄いのではないか。
先ごろ自民党が元府知事の太田房江氏を2人目の候補として擁立。維新も2人目の候補を出して対抗する意気込みを隠していない。そして、維新の東徹氏が現職で、自民、公明、共産が議席を持つ中で(自民は柳本卓治氏のおい、顕氏が立候補予定)、立憲民主がテレビ出演の多かった弁護士の亀石倫子氏を公認。国民民主も擁立の姿勢を見せており、もはや、サッカーW杯の「死のグループリーグ」に例えられるほど、大阪選挙区は激戦必至だ。
改選を迎える現職が出馬した2013年の大阪選挙区
松井氏が2人目で出ても知事、党首としての知名度から勝つ可能性は高いが、知名度で劣る東氏の票を食う恐れが考えられる。そうなると、ここは知名度重視より将来性やキャラクター重視で新人候補を擁立する。松井氏は比例に回って、大阪を中心に票を集めながら、全国に擁立する候補の応援で遊説に回ると考えるのが党勢拡大の観点でも合理的には思えるが、どうだろうか。
今後のシナリオが実際にどうなるか、現段階ではまだわからないが、維新が新たな一手を繰り出し、大阪が年の瀬から急に面白くなっていくのは間違いなさそうだ。
(追記26日23時)毎日新聞の報道から2日後の26日、松井知事は定例記者会見で、都構想の住民投票を巡り、公明党府本部と昨年4月17日付で交わしていた合意書を公表。辞職の選択肢に触れた中では、「出直し」のダブル選挙に打って出る構えを示したようだ。本稿は「出直し」以外のシナリオを想定したもので、シミュレーションが主眼なので訂正はしないが、掲載後に維新関係者から「出直しの見通しが強い」との指摘は受けていた。出直しの公算がもっとも強まったとみられる現段階では、年に2度の選挙を行うことになる出直し選に踏み切らないとの筆者の読みは、外れるかもしれない。