自衛隊の人手不足が深刻化しています。
ですが、当の防衛省、自衛隊には危機感が薄かったし今も薄いと思います。
我が国の老齢化、少子化は20年以上前から分かっていたわけで、それに対してなんら手を打ってこなかった。
それはそのための改革が面倒くさいから見ないことにしてきたからでしょう。
まず、拙著「国防の死角」でも述べていますが、長年防衛省、自衛隊は士長以下1士、2士の任期制自衛官を激減させました。これは財務省から人減らしをしろといわれたから、採用を押さえれば済むからです。
ですが財務省の目的は固定費である人件費を下げろということです。
であれば人件費の高い将官、高級将校を削るのが1番効率がいいわけです。彼らの生涯賃金が高いからではなく、副官、秘書官、運転手などが付きますから。彼らを減らせばその分の人間も少なく済みます。
ところが曹から将官までの職業軍人は増えています。
左前になったハンバーガーチェーンが銀行から固定費である人件費を減らせと迫られて、店舗のバイトを減らして、本社の正社員を増やすようなものです。まあ、倒産しますよね。その場合、本社のスリム化、正社員の整理が先です。バイトを減らすならば店舗数も減らすべきです。自衛隊でいえば部隊数ですが、店長ポストが減るから嫌がった。
結果人件費も下がらず、組織の図体もでかいママ。
現場の戦力が激減しました。1士、2士の充足率は4割程度、士長入れても7割です。
そんな中で人手不足が起こりました。4割しかいない兵隊が2割減ったらどうなるか、です。
さて次期中期防衛力整備計画(中期防)では海自のFFMにクルー制を導入するとしています。これはあまり注目されていませんが、実は大きな改革です。クルー制を導入することで、「交替勤務の導入によって、艦艇要員1名あたりの洋上勤務日数の削減を行う」とされています。
ぼくは以前からクルー制度の導入を唱えてきました。
クルー制の実験は既に音響艦で行っていますが、このときもあまり注目されてきませんでした。
巡航ミサイル導入の蒙昧。またも「官邸の最高レベル」の思いつきか。
これは艦艇の稼働率を高めることにも役に立ちますが、そうしないと不人気な海自の人員確保ができないからでしょう。当初はFFMだけでしょうが、次第に他の艦艇にも適用されるようになるでしょう
ですが、海自は人員確保だけに目が行っているよう思えます。
クルー制導入によって、艦艇の稼働率が高まるのであれば、艦艇の数を減らしてもいいということです。
艦艇の数を減らして、建造費や運用コストを抑える。例えば今は50隻の護衛艦があるとして、クルー制導入によって、それを40隻まで減らすということを考えないといけません。そのような大きな構図を海自は少なくとも納税者に示してはいません。隻数が減れば搭載機器の充実なども可能です。現在予算不足で本来装備されている装備が搭載されていない艦艇が少ながらずあります。
ヘリや哨戒機などにもクルー制導入を検討すべきです。
また、充足率もどの程度にするのかという目標も出すべきです。以前海自は護衛艦の乗員の充足率8割を目指すといいましたが、それが達成できたか聞いたことがありません。
ただでさえ募集が苦しいのに、航海日数を増やしただけでことが足りるのでしょうか。
ぼくはかなり難しいと思っています。多分不可能でしょう。
辛い艦隊勤務が多少緩和されただけでは劇的な改善はなされないでしょう。しかも海自は旧帝国海軍伝統の「いじめ」があります。狭い艦内では逃げ場がなく、自殺に追い込まれた隊員もいますが、これを海自は必死に隠蔽しようとしています。
一体誰がそんなブラックな組織に子供を入れようと思うでしょうか。
しかも1番人間集めが難しい潜水艦はかつての16隻から22隻に増強されています。
乗員が少ないFFMや警備艦で既存の乗員数で置き換えるにしても大変でしょう。
また、近い将来海自の基地警備など陸自が担当し、浮いた隊員を乗艦させることも予定されていますが、それでも人材確保は難しいでしょう。
艦の中でのWi-Fiなどの使用をかなりゆるくするなども必要でしょう。
また全員個室は無理にしても居住環境の改善も必要です。
更には外人部隊も必要ではないでしょうか。フィリピンやベトナム、ミャンマーなどの海軍から人員を割愛してもらって、自衛官の待遇で雇う。賃金の一部は現地の海軍に支払ってもいいでしょう。帰国後海軍に戻れば、人的な交流も増えますし、希望者には例えば5年勤務すれば日本の定住権を与えてもいいでしょう。
それから医官も問題です。現状自衛隊部隊の医官の充足率は2割を切っており、それは掛け持ち含めての数字です。護衛艦の多くには医官は乗艦しておりません。これで本当に戦争ができるのでしょうか。
医官の充足率を上げることも重要かと思います。それがなければいくら艦隊を増強しても所詮張り子の虎にすぎません。
■本日の市ヶ谷の噂■
陸自の次期拳銃は重量860グラム以下、ストライカー方式で、ライセンス国産は除外との噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2018年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。