米国に「ClinicalTrials.gov」に検索可能な臨床試験データベースがある。「Cancer」で検索すると64,464項目がヒットする。この中には「completed」(終了)したものも「Active, not recruiting 」(試験中であるが、患者さんのリクルートは終わっている)も含まれるが、現在治験登録を行っている臨床試験、これから始める予定のものだけでも、登録数は17,497にのぼる。
そして、キーワードを「ネオアンチゲン」で絞ると95項目がヒットする。驚いたことに1ページ目の10の臨床試験のうち、6つが中国から登録されている。
「A Study Combining Personalized Neoantigen-based Dendritic Cell Vaccine With Microwave Ablation for the Treatment of Hepatocellular Carcinoma」
「Clinical Trial on Personalized Neoantigen Vaccine for Pancreatic Tumor」
「Immunotherapy Using Precision T Cells Specific to Personalized Neo-antigen for the Treatment of Advanced Malignant Tumor of Biliary Tract」
「Neoantigen Reactive T Cells Combined With SHR-1210 for Chinese Patients With Advanced Refractory Solid Tumors」
「Clinical Study of a Personalized Neoantigen Cancer Vaccine in Treating Patients With Advanced Pancreatic Cancer」
「Clinical Study of a Personalized Neoantigen Cancer Vaccine in Treating Patients With Advanced Malignant Tumor」
上から、肝臓がん、膵がん、胆道がん、再発がん、膵がん、進行がんと挑戦的な臨床試験が並んでいる。日本の標準療法では太刀打ちできないがんが並んでいる。
日本で「遺伝子パネル」などと10年前の米国を追いかけるような「とろくさい」ことをしている間に、中国は先回りをしてネオアンチゲン治療で大きな動きが始まっているようだ。米国では5年近く前から、ネオアンチゲン治験が始まっていた。そして、中国では、CAR-T細胞療法開発に挑んでいる会社は20を超えるという。
免疫チェックポイント抗体の科学的作用機序や現状のCAR-T細胞の結果を理解していれば当然の動きと思うが、科学的素養に欠ける人たちが、免疫療法バッシングを行っているうちに、日本は大きく取り残された。ネオアンチゲン療法、それに続く、T細胞受容体導入T細胞療法こそ、がんの治癒を目指したがんゲノム医療の最大の出口ではないのか?と有明で叫んでも、築地には届かない!周回遅れどころではない、信じがたい動きの遅さに何も感じない行政はどうなっているのだろうか?
私の動きについてきているのは「Friday」だけだ。「中村先生は雑誌を選ばないのですか?」と非難の目を向けられたと、私の部下が言っていたが、これは草の根運動の一環だ。大手新聞もNHKも、偉そうなことを言っているわりには権威と称される機関や研究者・医師に弱い。
最近の記者は、限られた情報源からしか知識を得ないので、海外に対するアンテナが欠落している人が少なくない。NHKスペシャルも、科学的には切り込むことができず、情に訴える部分でしか番組を作れなくなった。大手メディアの限界なのだ。女性の裸に関心がある人、芸能人のスキャンダルに興味のある人たちの周辺にもがん患者はいるはずだ。そんな人たちも巻き込んでがん医療を変えていきたい。
がん治療は革命的変革を遂げつつある。がん医療供給体制の将来を考える仕組みそのものにもメスを入れるような革命的な動きがなければ、日本は取り残される。アジアのがん患者が日本を訪れるのではなく、日本のがん患者が中国に治療を受けに行く。「そんな日が意外に早くやってくるのでは」、そんな気がしてならない。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2018年12月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。