あけましておめでとうございます。新しい年が皆様にとって良い年でありますように。
さて、この元日といえば中華料理チェーン「幸楽苑」さんが、お休みとのことである。
12月31日の新聞広告に15段ぶち抜きのフルカラー原稿に「2億円事件」とセンセーショナルなコピーが目立つ。11月に就任したばかりの新井田昇社長の言葉で、
「いつからでしょうか。お正月にいろいろなお店が営業するようになったのは。私たち幸楽苑も、いつしか年中無休のらーめんチェーン店を売りにしていました」
こんな書き出しから始まる文章で、新井田氏は、企業にとって売り上げや株価は大切ながら、新社長としての初仕事は「働く人の気持ち」を守ることだったと明かす。1月1日の売り上げは「およそ2億円」にのぼるが、「働き方改革を、お正月にも」との思いから、創業64年で初めて休業を決めたそうだ。(J-castニュース 12月31日)
幸楽苑さんと言えば、看板メニューだった「中華そば」290円の販売を中止して以降、価格戦略で迷走したり、異物混入があったりで、一昨年には52店舗を閉鎖するなど、ここしばらく経営的には苦戦気味という印象だっただけに、なおさら驚いた。
直近1億円以下の年間営業利益の見込みであることからも、元日の売り上げ2億円の意味は非常に大きいだろうし、全国紙に15段4色の出稿をする広告費も相当なものである。
まずはこの広告、就任したばかりの新社長が従業員のモチベーションをあげてこれから一丸となって反撃攻勢する気合の怪気炎とみて「その意気やよし」と応援したい。
ツイッター等でもまずは好評なようである。確かに、お客さんの多くも自身がどこかに勤めているわけで、従業員を大事にしたいという社長を共感こそすれ、非難する気には誰もならないに違いない。
「お客様は神様です」の呪縛
「お客様は神様です」と言ったのは昭和の大歌手、故三波春夫さんだ。それはそうなのだが、実は三波さん自身が本来の意図と離れて一人歩きをしてしまったこの言葉に一番戸惑っていたということで、三波さんのホームページには、今でもわざわざ詳しく本来意図した言葉の趣旨を解説しているぐらいだ。
三波春夫にとっての「お客様」とは、聴衆・オーディエンスのことです。客席にいらっしゃるお客様とステージに立つ演者、という形の中から生まれたフレーズなのです。
三波が言う「お客様」は、商店や飲食店などのお客様のことではないのですし、また、営業先のクライアントのことでもありません。
しかし、このフレーズが真意と離れて使われる時には、例えば買い物客が「お金を払う客なんだからもっと丁寧にしなさいよ。お客様は神様でしょ?」と、いう風になるようです。そして、店員さんは「お客様は神様です、って言うからって、お客は何をしたって良いっていうんですか?」という具合。俗に言う“クレーマー”には恰好の言いわけ、言い分になってしまっているようです。
なんとも皮肉なことなのであるが、この発信者の意図とは違うかたちで広まった“言霊(ことだま)”のおかげもあったのだろうか、現在日本の都市生活者が恐らく世界一便利な消費生活を送っていることに異論は多くないだろう。
「24時間年中無休」のコンビニやファミレス、「即日配達」の宅配や通販、どれも外国人が驚くものばかりだ。
サービスの質の面でも、例えば日系のエアラインが誇る「かしずくような」ホスピタリティに至っては外国人にとっては不気味ささえ感じてしまうレベルであるらしい。
サービス水準のインフレ現象は究極の消耗戦
しかし少し考えてみれば、ある日どこかでお客様になっている自分も働くときはサービスを提供する側、その高度なサービスを維持する側になるわけで、ハードルを上げ続けることはお互いを苦しめる結果にもなっているし、実際その弊害は露呈しつつある。
サービスレベルが極限まで行き着いてしまった業種には人が集まらなくなり、働き方に由来する問題が多発するなど限界点に来ていることは明らかだ。
また過剰なサービスは、クレーマーという勘違い人間も多く生み出すという深刻な副作用も生み出した。
ちなみに、かつて勘違いクレーマーを一番多く見受けるのは、私見では日系エアラインの上級クラスだった。
最高のホスピタリティが最悪の勘違いを生み出す皮肉に、各航空会社も気が付き始めたようには思われることはうれしい限りだ。
それにしても、働く人個人の視点で考えても、高度なサービスを実現するための仕事でストレスをためて、ためたスストレスを高次元のサービスで晴らして、またそのサービスの提供者は疲れ果てて。。延々と続いてしまうスパイラルを生きるのでは一体何をやっているか分からない。
そろそろ「お客様は神様です」の呪縛から離れるときだろう。
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秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。