安倍首相は、伝説的名門300クラブがお好き?

秋月 涼佑

安倍晋三首相は2日、神奈川県茅ケ崎市のゴルフ場で、今年初めてのゴルフを楽しんだ(産経新聞)。

この茅ケ崎のゴルフ場とは伝説的な名門「スリーハンドレッドクラブ」であろう。

トランプ大統領来日時にもゴルフを楽しんだ安倍首相(官邸サイト、編集部)

安倍首相がよくプレーすることで知られている。

安倍首相のお気に入りコースと言えば、山梨県富士河口湖町の「富士桜カントリー倶楽部」も有名だ。

こちらも男子トーナメントの「フジサンケイクラシック」開催する本格派の名門である。首相は、川口湖畔に別荘を持つとのことだから、別荘滞在時は富士桜CCなど周辺の名門コース利用が多いのだろう。今回は都心のホテル滞在とのこと、そもそも富士桜CCは12月中旬から冬季クローズである。

さてこの「スリーハンドレッドクラブ」は日本一エクスクルーシブな(メンバーだけに開かれた)ゴルフコースとして有名である。いや、有名であるという言葉は適切ではないかもしれない、知る人ぞ知る存在であり、伝説的な名門ゴルフコースなのである。

その理由は、まず実際にプレーしたことがある人間が極端に少ないからだ。そもそも「スリーハンドレッド」の由来がメンバーを300人に限るということからきているのだが、一説には現在のメンバー数は300人をはるかに切っているのではないかとの話もある。もちろんプレーはメンバーとその同伴者のみで、その運用は今どきかなり徹底していると聞く。クラブの公式ホームページさえ存在せず、会員権も市場に流通しているような代物ではないが、一説には7000万円とも8000万円とも言われている。

入会資格は、政治家は首相、外相の経験者に限る。日本駐在の外国大使は入会金なし、財界人は、一部上場企業で50歳以上等が基本ルールとのことだが(田野辺薫の名コースめぐり)、人品骨柄に対する厳しい入会審査がありメンバー入りは困難を極めるという。入会できるのならば金は喜んで払うという人は掃いて捨てるほどいることだろう。

(ちなみに安倍首相自身は会員権をある時点で手放していることが資産公開から確認できるようだが、同伴プレーヤーがメンバーなのでプレーすることに何ら問題ないのだろう。)

現役の数少ないメンバーもユニクロの柳井氏や、ソフトバンクの孫氏など超がつく有力者揃いとのことで、孫氏がこのコースで、ありし日のスティーブ・ジョブズを接待したとの都市伝説もあるが、エクスクルーシブなクラブライフでの出来事ゆえ確かめようもない。

もうひとつ、「スリーハンドレッドクラブ」を伝説ならしめている理由が、その歴史である。

後に総理大臣になる中曽根康弘氏が、各界から復員したばかりの青年将校たち各20人を集めた、青年懇話会という憂国の士の集まりが発起人的な位置付けだ。

その青年懇話会のメンバーの一人が、東急グループ総帥で中興の祖といわれる五島昇氏であった。「東大ゴルフ部卒業」と自称するほどゴルフに造詣が深い氏が、理想とするクラブライフを実現するために、自らコース設計まで指図するなどして完成させた。

石原慎太郎氏は近著『男の粋な生き方』(幻冬舎)の「クラブ」という章の中で、同好の士が集まってよしみを通じる「クラブ」というものの素晴らしさと一方での成り立ち難さを語っているが、そこで「スリーハンドレッドクラブ」での五島昇氏との印象深いエピソードが紹介されている。

ある日、石原氏と五島昇氏を含む3組でコンペをし、インスタートであがりの難関アウト9番ホールを五島氏がパーであがれば優勝、ボギーなら石原氏らとプレーオフという場面となった。全日本アマ決勝まで進出したアマチュアながら名手で名高い五島氏だったが、なんと名物ポットバンカーで大叩きしてしまった。そこを自分もこのポットバンカーに苦戦した同伴プレーヤーが「このホールは難し過ぎるよ、このバンカーはいらないぜ」とぼやくと、五島氏は「おい、このバンカーを埋めろ」と早速指示したという。すると石原氏が風呂から上がってテラスで一杯やりはじめる頃には、早くもコースキーパーがそのポットバンカーを埋め始めていた。

なるほどこれがプライベートクラブのオーナーというものだ

と石原氏はいたく感心したとのことだ。

このような超エクスクルーシブクラブで日本の総理大臣がゴルフをプレーすることに対して、市民活動家的な人々は、特権的、排他的であり非民主的であると非難の目を向けるのかもしれない。

しかしながら、石原慎太郎氏や五島昇氏が意図するクラブライフや、エクスクルーシブネスの趣旨は「文化やスポーツに対する造詣深いもの同士の、他人に邪魔されないよしみの場」や「地位を持つ者同士であっても、お互い立場やその緊張感を離れてリラックスして交流する場」という至極文明的なものだ。

実際、「スリーハンドレッドクラブ」の入り口には、身分や地位を捨てて入場すべしとの、論語からの警句が立つ。

「有朋自遠方来不亦楽乎」

友人が遠方からわざわざ訪ねて来てくれる、なんと楽しいことではないか。

「不許冠職入山門」

身分や地位、職業に執着する人は立ち入るべからず。

アゴラの新田編集長の記事にあるように、私も安倍首相は大変にリベラルな思想をもつ政治家だと考える。

元号公表:リベラルな安倍首相は2019年も勝ち抜けるか − 新田 哲史)

そして安倍首相のリベラルネスとは、かつての市民活動家的の延長、見識のまま総理大臣を務めた何人かの当時民主党の政治家が我々を失望させたのとは違い、国家観、リアリズムに裏打ちされたものではないだろうか。

船橋駅での辻立ちで有名な野田氏や菅氏などが重視した、市井の人々の生活感覚は政治家にとって議論の余地なく重要な視点である。一方で、日本の有力者層を一方的に邪悪と決めつけるのも根拠がない。彼らの多くは、志も熱量も高く日本の国力に貢献する人々であろう。

野田氏や菅氏は、真にこの有力者層からの信頼を勝ち得ていただろうか。

安倍氏がリベラルな感覚を持った上で、その出自や人となりを生かし、交流の中で日本の有力者層からの信認を得ることに成功し、忌憚のない意見交換をする立場であれば、国政の安定や未来に向けた取り組みにおいて喜ばしいことであろうし、伝説的名門「スリーハンドレッドクラブ」はまさにそれにふさわしい場と言える。

もちろん、権力と有力者の交流の場は一般論として利権や専横の温床ともなりやすい。

野党には、引き続き権力に対する監視や牽制の役割は大いに期待したいが、去年の国会のような“なまくら刀”でなぶったあげく切りきれないような醜態は見たくない。スパっと切れ味鋭い野党の存在感もまた国家の存立に必要なものに違いない。

秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。