バンクーバー住宅市場のゆくえ

バンクーバーは1986年の万博を契機に97年返還を控える香港などから注目され、香港や台湾からの移住と資産の分散化ブームが起き、不動産市場は活況を呈してきました。香港から見てなぜバンクーバーだったかといえばアジアから最も近い北米の都市、アメリカよりマイルドな社会環境や政治的安定感、モザイク社会と呼ばれ、中国人コミュニティ形成にハードルは高くなかったことがありそうです。もちろん、トロントにも中国系移民が多くいますが、バンクーバーの移民はトロントほど根付かない、腰の軽さがあったことも事実です。

多くの香港からの新移民はバンクーバーで満足できる仕事が見つからず、父が単身で香港に戻り、母子家庭が増え、子供はカナダの大学を卒業したら母とともに香港や台湾に帰るという人も多かったのです。それが目立ったのが2005年頃だったと記憶しています。そして入れ変わりにその不動産を買ったのが中国本土からの移民でありました。

カナダのバンクーバーの街並み(編集部:写真AC)

カナダのバンクーバーの街並み(編集部:写真AC)

つまり、バンクーバーの86年から始まる長期的な不動産ブームの陰には不動産好きな中国人が大きな支えになっていたことは誰もが疑う余地がないのです。もちろん、その間、為替の関係でアメリカ人によるカナダ投資ブームもありましたし、カナダ人そのものも不動産に対する執着は高く、とにかく買う、できれば投資用も含めて買う、というスタンスを貫いていました。少なくともその当時、不動産を買った人たちは数千万円から億単位の不動産あぶく銭を儲けたかもしれません。

が、異様な不動産価格高騰は一般大衆からの不満との背中合わせでもあり、州や市ではより買いやすい住宅への支援を様々な形で打ち出してきました。その中でこの数年、非居住者(=外国人)による不動産購入に対する特別税や空き家にしている場合の空室税なるものを導入し、バンクーバーに向かっていた不動産購入資金が一時、凍り付きそうになったこともあります。金利も上がり、不動産ローンへの審査基準も厳しくなりました。

追い打ちをかけたのがここ数年の中国からのマネーの動きの鈍化です。外貨持ち出し規制と彼らの懐具合の問題が大きいのでしょう。ただ、バンクーバーは中国マネーだけが集まるところではありません。イランやロシアマネーもかなり入り込み、大きなイラン人コミュニティがありますし、当地のインド人コミュニティの存在感は圧巻です。

移民政策という意味では現在の年間25万人水準から数年後には人口の1%に当たる年間35万人水準の移民を受け入れると発表しています。その多くは経済移民であるため、一定の資産とスキルをもつ人たちが多く、潜在的住宅需要は引き続き維持できるとみています。こう見るとバンクーバーに限って言えば中長期的には住宅市場は引き続き健全であると考えています。

ただし、現時点で見るとかなり落ち込んでおり、不動産屋が嘆くような状態です。中古の取引件数は18年度は17%落ち込み、新築着工件数も10%下がっています。2019年、新築着工件数はもっと下がるとみられています。売り急ぐ人は希望売却価格を1000万円単位(7-8%)下げ、それでも買い手がつかない戸建てもあります。

一方、コンドミニアムは交通の便や扱いやすさで新規開発物件は留まるところを知らず、ダウンタウンの眺望が取れる高級新築物件ではSF当たり2000ドル(平米当たり183万円程度)と東京並みになっています。価格については専門家は来年度はやや下がると予想していますが、クラッシュするような状況は全くありません。

なぜバンクーバーの不動産を取り上げたかといえばここは世界のマネーが集積しやすい環境があり、地元経済を支えている点を申し上げたかったのです。人口が増え、マネーが入り、環境があり、安定した国のもと社会サービスや教育も充実していると経済は拡大し続けるし、街はどんどん大きくなります。

世界各地で移民の問題がありますが、カナダが経済移民というハードルの高い移民を中心に受け入れており、国境を接しているのはアメリカだけで不法移民も極めて少ない点が国家の基盤となっていることは欧州やアメリカの南部で抱える問題とは一線を画しているとも言えそうです。そう考えると日本と地政学的には似ているわけで日本の外国人労働者政策等についても学ぶところはもっとあるかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月9日の記事より転載させていただきました。