前回陸自の戦車、火砲の削減が遅々として進んでないことをご案内しました。
25大綱別表の注釈では以下のようにあります。
戦車及び火砲の現状(平成 25 年度末定数)の規模はそれぞれ約 700 両、約 600 両/門であるが、将来の規模はそれぞれ約 300両、約 300 両/門とする。
当時防衛省の説明では10年掛けてそれぞれ減らすことになっているという説明しました。
ところが次期大綱別表ではこのようにあります。
戦車及び火砲の現状(平成 30 年度末定数)の規模はそれぞれ約 600 両、約 500 両/門であるが、将来の規模はそれぞれ約 300 両、約 300 両/門とする。
つまり現大綱において、戦車は400両、火砲は300両/門減らすはずがそれぞれ100両/門減でしかない。
高々毎年20両/門減です。
旧式化して不要な装備が維持され、それに人員も拘束されています。
不要な戦車が300両、火砲が200両/門あることになります。
仮に乗員、整備員、調達その他間接要員を含めて戦車1両あたりの人員を6名、火砲は12名として計算すると、戦車は1800名、火砲は2400名、合計4200名、1個旅団以上の隊員が拘束されていることになります。
また装備を維持するための維持費などもかかります。
更に問題なのはその間機動戦闘車が導入され続けていることです。
これまで87両が調達されており、その人員は乗員だけでも348名が必要です。
軍オタさんたちは、あれは戦車じゃないというでしょうが、一種の駆逐戦車です。
陸幕の説明の通りの敵の軽戦車までの対処であれば105ミリ砲なんぞ必要ない。機甲科にしてみれば政治的にはまさに戦車であり、74式戦車の後継です。どうせ戦争しないんだから装甲は薄くていいや、ということでしょう。何しろファーストエイドキットですら殆どまともに調達せず、戦車搭載のキットなんかが搭載されていないのが普通です。
これで人手が足りないと騒いでいるわけです。常識に何かがオカシイと思うのが常識ある人間の考えることでしょう。ずるいのは別表の注釈には削減の期限が書いていないことです。これで逃げを売っているのでしょう。
内局もグルだということです。
これでは無人機やUGV、ネットワーク、普通科の近代化などの諸費や人員が捻出できるわけがないでしょう。
次期大綱においても戦車、火砲がそれぞれ100両/門減とするならば、余剰の戦車が200両、余剰火砲は100両/門ということになり、遊兵化する隊員はそれぞれ1200名、1200名の合計2400名ということになります。
しかも次期中期防は134両の機動戦闘車が導入される予定です。仮に機動戦闘車の調達数が200両とするならば、次の次の中期防では28両が必要となります。そうであれば次期大綱中必要な機動戦闘車のクルーは648名となります。
次期大綱では人手不足を如何に補うかと延々と述べているわけですが、これが非常に虚しく聞こえてきます。
そもそも期間や達成時期が示していないものを計画とはいいません。
国会がなぜこのような胡乱な話を質さないのか、納税者の一人して不思議でなりません。
■本日の市ヶ谷の噂■
陸自のUH-Xは当初調達単価を現用のUH-1Jと同等の12億円にすると言っていたが18億円を超えることは火を見るより明らか。本来大臣通達で調達を見直すべきだが、18億円は無線機など追加装備を搭載額で問題ないと苦しい言い訳をして乗り切るつもりとの噂。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年1月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。