日韓問題はタイムマシンで解決だ

韓国の文在寅大統領は今年、韓国“建国”100年として大規模な式典を計画している。当方が住むオーストリアでも韓国大使館主催の建国100年記念式典が開かれるという。「100年」といえば、1919年3月の通称「3・1運動」をきっかけに、民衆が太極旗を振りつつ「独立万歳」と叫びながらデモ行進をし、日本から追われた独立運動家たちが亡命先の中国の上海で「臨時政府」を擁立した時から数えて「100年目」ということらしい。

「らしい」と書いたのは、1919年の臨時政府の発足を韓国の建国と受け取ることは難しいからだ。日韓併合は1910年だ。その後、韓国は存在しないことになる。実際、韓国保守系政治家からも「韓国の建国記念日は1948年8月15日であって、1919年ではない」という声が聞かれる。

文在寅大統領の新年の記者会見(2019年1月10日、韓国大統領府公式サイトから)

文在寅大統領は「わが国にとっては日本政府の植民地統治に抵抗して立ち上がった1919年こそが真の韓国建国の日だ」と主張して憚らない。それだけではない。独自の歴史観に基づく建国記念日に対し国際的認知を得るために、世界各地で今年「韓国建国100年式典」を計画している。文政権は決して冗談ではなく、どうやら真剣に考えているらしいのだ。

歴史を自身の世界観から恣意的に操作し、新たな記念日を設置するやり方は隣国の同胞・北朝鮮の独裁政権、金王朝のそれをどうしても思い出してしまう。独裁者は政治体制だけではなく、歴史を書き換えることなど朝飯前だ。“金正恩のスポークスマン”と呼ばれる文在寅大統領は韓国で同じことをしようとしているわけだ。

当方は昔、駐オーストリアの北朝鮮外交官と韓国動乱(1950~53年)について激論を交わしたことがある。当方は「動乱は北側の侵略行為から始まった」と主張したら、若い北外交はは顔を真っ赤にして「馬鹿なことを言うな。米軍と南政府が仕掛けた戦争だ」と言って譲らない。北外交官は母国で韓国動乱は「米軍と南軍の仕業」と教えられてきたのだ。それ以外の歴史観を知らないから、当方のような主張は信じられないのだ。当方も北外交官も自説を曲げないため議論は平行線に終始したが、北外交官が最後に、「俺の親父も日本軍に殺された」と呟き、憎しみを込めた目線を当方に投げかけたのを今でも忘れない。

文在寅大統領は政権発足以来、「積弊清算」を標語に反日活動を進めてきた。韓国済州島で昨年10月に開催された国際観覧式で日本の海上自衛隊の自衛艦旗(旭日旗)の掲揚自粛要求、旧日本軍の「慰安婦」問題の和解・癒し財団の解散、そして朝鮮半島出身戦時労働者(いわゆる「徴用工」)の賠償請求容認判決まで、ソウルから次々と反日言動が発信されてきた。

文大統領の次の一手は韓国独立運動100年記念を世界的に祝い、日本の過去の統治時代を糾弾することだ。文大統領は昨年、習近平中国国家主席との会談の中で、日本の植民地時代に独立運動の拠点となった「臨時政府」が重慶に設置されてから、来年(2019年)で100年になることに触れ、中国内の独立運動の跡地の保存に協力を求めている。準備万端だ(韓国聯合ニュース2018年11月17日)。

朴槿恵前大統領は2013年6月に訪中した際、習近平主席に安重根記念碑の設置を提案した(中国黒竜江省のハルビン駅で14年1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開された)。安重根は1909年10月26日、ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された人物だ。テロリストは出身国では英雄扱いされることがあるから、「安重根記念館」の設置はある意味で理解できるが、「大韓民国臨時政府」の発足の地を歴史的記念の地として保存することは、日韓併合条約を否定し、韓国の建国史を根本から書き換える魂胆が見え見えだ(「韓国『歴史の書き換え』に乗り出す」2018年11月22日参考)。

文大統領は日本に対して「未来志向の関係を構築しよう」と口癖のように言うが、実際は「過去指向」一色だ。文在寅大統領が取り組んでいることは「歴史の見直し」といった生温いことではなく、「韓国臨時政府」から始まる「歴史の書き換え」だ。

日韓両国間の紛争はここにきてエスカレートしてきた。これまで主に「過去」(歴史)が争点だったが、韓国駆逐艦が日本の海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題で日韓両国間の紛争はいよいよ軍事領域に入ってきた。3・1の韓国臨時政府100年の記念式典では韓国の反日ムードはピークを迎えるだろう。

ブルガリアの予言者ババ・ヴァンガは、「西暦2288年になればタイムトラベルは可能となる」と予言した。当方はヴァンガのこの予言が的中することを願っている。なぜならば、タイムマシンが可能となれば、文大統領のように過去の歴史を恣意的に書き換える政治家はいなくなる。全てがあからさまになるからだ。その時、日韓両国関係は「過去」から脱出し、本当の「未来志向」の関係が樹立できる、という希望が出てくる。ただし、それまでに269年の年月がある。日韓両国は今後269年間、過去問題で不毛の紛争を繰り返すのだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。