韓国「歴史の書き換え」に乗り出す

韓国の文在寅大統領が今取り組んでいることは「歴史の見直し」といった生温いことではなく、「歴史の書き換え」というべきだろう。それだけに、「正しい歴史認識」をモットーに日本政府を糾弾してきた朴槿恵前政権より“革命的な試み”というべきかもしれない。これは“誉め言葉”ではなく、日本に危険をもたらすという意味だ。

「歴史の書き換え」に乗り出した韓国の文在寅大統領(2018年11月20日、韓国大統領府の公式サイトから)

日本の主要メディアが日産自動車代表取締役会長のカルロス・ゴーン容疑者の金融商品取引法違反事件での逮捕報道に追われていることもあって、余り注目されなかったが、文大統領は習近平中国国家主席との会談の中で、日本の植民地時代に独立運動の拠点となった「臨時政府」が重慶に設置されてから来年で100年になることに触れ、「中国内の独立運動の跡地の保存に協力を求めた」というのだ。それに対し、習主席は文大統領の願いに積極的に協力すると応じたという(韓国聯合ニュース11月17日)。

この記事を読んだ時、朴槿恵大統領時代の「安重根義士記念館」のことを思い出した。朴槿恵大統領は2013年6月に訪中した際、習近平国家主席に安重根記念碑の設置を提案した。そして中国黒竜江省のハルビン駅で14年1月20日、「安重根義士記念館」が一般公開された(安重根は1909年10月26日、中国・ハルビン駅で伊藤博文初代韓国総監を射殺し、その場で逮捕され、10年3月26日に処刑された)。

朴大統領の提案の段階では、「安重根記念碑」の建立だったが、中国側が一方的に“格上げ”して「安重根記念館」を建てた経緯がある。韓国はその時、中国側の配慮を感謝し、「韓国政府はハルビン駅に安義士の記念館が開館したことを歓迎し高く評価する」という同国外交部当局者のコメントを出している(「韓国は何を誤解していたのか」2016年7月12日参考)。

文大統領は今回、習近平主席に「大韓民国臨時政府」が中国の重慶を拠点としていたことに言及し、「中国内の独立運動の跡地の保存」を要請したのだ。

「安重根記念館」の設置はある意味でまだ理解できる範囲だ。テロリストも出身国では英雄とみなされるケースはよくあることだ。パレスチナのヤーセル・アラファートはパレスチナ人にとって「民族の英雄」だったが、イスラエルにとって「テロリスト」だった、という具合だ。だから、韓国が安重根を英雄として追悼記念する気持ちは分かる。しかし、「大韓民国臨時政府」の発足の地を歴史的記念の地として保存するという考えは、日韓併合条約を否定するものであり、韓国の建国史を根本から書き換えることを意味する。

文大統領はここにきて反日攻勢を強めてきた。韓国大法院(最高裁)は先月30日、元「徴用工」(朝鮮半島出身労働者)の賠償請求権を認める判決を下し、1965年に締結した日韓請求権協定を破棄した。そして韓国女性家族部は21日、2015年末に日韓合意した慰安婦問題に関して「最終的かつ不可逆的な解決」に基づいて設立され、元慰安婦らの支援事業「和解・癒やし財団」を一方的に解散すると決定している。

この一連の反日行為は日米韓の3国が中心となって北朝鮮に非核化を要求している時に行われた。文大統領が“バカな”政治家なら説明がつくが、人権弁護士であり、国際条約が何を意味するかを理解しているはずの文大統領が“今の時”がどんなに重要かを忘れ、「歴史の見直し」を超え、「歴史の書き換え」に乗り出してきているのには呆れるしかない。

韓国政府の過去の対日政策について、誰でも理解できる合理的、理性的な説明を求めること自体はバカげているかもしれないが、文大統領の最近の「歴史の書き換え」は非常に危険な試みばかりか、朝鮮半島の政治安定をも危うくする。火遊びで終わらない問題だ。日本政府は「誰と対峙しているか」を再度明確にし、外交と政治の両分野から危機管理に乗り出すべきだ。安倍晋三首相の「戦略的放置」は現時点では最も合理的な選択肢かもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年11月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。