ゴーン被告の解任はやはり正解

仏政府、ルノーもやっと決断

東京地検特捜部に逮捕されたゴーン被告を解任し、後任人事を決めることを仏政府、ルノーが決断しました。日産は早々にゴーン会長を解任しましたから、残る仏側の出方が注目されていました。ルノーは第2次世界大戦後、国営化されてルノー公団になり、民営化された後も仏政府が筆頭株主(19%所有)ですから、重い決断です。新体制の構築を急がねばなりません。

昨年11月8日、ルノー工場を訪れたマクロン大統領を案内するゴーン氏(フランス大統領府動画より:編集部)

どこまで有罪かどうかは今後の検察の捜査、裁判を通して決着するにしても、ゴーン被告の不透明、不明朗な行動、それによる社内の混乱を、これ以上、仏政府として黙認できないことを認めざるをえない。仏側が被告の解任を3度も見送っていましたから、検察の捜査手法、日産のクーデターまがいの行動に仏側も批判的だとみる識者たちはおりました。

仏側は捜査の進展や犯罪的な行為があったのかどうか、しばらく様子を見るしかなかったのでしょう。それに区切りをつけた。検察の起訴、追起訴、長期化する拘留、激化する自動車戦争という現実を前に、早く新体制を決めないと、世界の自動車市場で戦っていけないとの結論に達した。「判決で有罪と宣告されるまでは無罪と推定」(推定無罪の原則)と言ってばかりいられなくなったのでしょう。

決算発表も2月に迫る

会社の私物化、人事決定における専横ぶり、金銭的強欲など、ゴーン事件は世界有数の自動車メーカーのイメージを損なっています。いつまでも会長不在では、技術進歩で激変する自動車業界を生き抜く基本戦略も作れないし、業績の悪化を懸念する必要もある。ルノー本社の決算発表は2月半ばに迫っており、新体制を決めてかからないいと、決算も株主総会も乗り切れません。混乱の原因はゴーンに発する。

日本における最大の裁判のひとつ、ロッキード事件(田中角栄への5億円の賄賂)は通算17年もかかりました。ゴーン事件は初公判までに半年以上は待ち、決着までとなると何年かかるか。日産は会社資金の私的流用で、被告に損害損害賠償を請求するそうです。ゴーン被告は死に物狂いで抵抗し、もう会社経営どころではない。はやりトップの座から下ろすしかないのです。

田中裁判の全てを傍聴したという評論家の立花隆氏は「ゴーンの逆襲で日本の特捜もやられる可能性があるごとき言をなす人がかなり出ている。しかし、田中裁判における長い長い攻防戦を見てきた人間として、最後に敗北するのはゴーンの方だろう。驚くべき地位利用犯罪だ」と、予想しています(文芸春秋2月号)。

虚偽記載は粉飾決算と同じ

有価証券報告書の報酬虚偽記載について、「形式犯にしかすぎないのに、逮捕までするのか」という批判が続いています。「企業経営にかかわる数字を載せ、資本主義の根幹にかかわる報告書であり。虚偽の数字を載せることは粉飾決算と同じで、もっともしてはならない行為」と、立花氏は断言します。

日産の西川社長はゴーン事件にかかりっきりでしょう。社内に専従班も編成され、被告と徹底に対決して、有罪に持ち込む決意でしょう。一方、日産としても、早く区切りをつけ、激化する自動車戦争を生き抜く戦略を練っていかないと、内外の自動車メーカーを喜ばせるだけです。

日産がゴーン事件では勝っても、自動車戦争では負けたでは、何のためのゴーン追放、告発であったか分からない。西川社長らに、ゴーンに横暴を防げなかった責任があるとの批判が社内であり、彼らの進退問題が浮上するでしょう。その場合でも、責任の重さを考える上では、主犯はだれで、共犯はだれだったかという順序になるのでしょうか。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。