1月9日号のScience Translational Medicine誌に「Opioid overdose detection using smartphones」、そしてNature Medicine誌に「Cardiologist-level arrhythmia detection and classification in ambulatory electrocardiograms using a deep neural network」というタイトルの論文が掲載された。
前者は、麻薬(特にフェンタニール)の過剰投与よって起こる呼吸停止、無呼吸などをスマートフォンによって検出できることを示したもので、無呼吸に関しては96%の精度で見つけることができると述べられていた。この検出システムを利用し、救急搬送システムに情報を送る体制構築すれば、速やかに救急車を現場に送ることが可能となり、過剰投与から呼吸停止につながる死亡という不幸を防ぐことができる。
後者の論文は、心電図上の不整脈をコンピューター判読するシステムの開発を報告したものだ。53,549名からとった91,232回の心電図を12パターンに分類するアルゴリズムを開発し、コンピューター(人工知能)と循環器専門医による診断の精度を比較した結果が報告されている。専門医によるコンセンサスを正解としている。
コンピューターによる診断精度は、心房細動については71%(専門医は86%)、心室性頻脈については65%(専門医は70%)であった。コンピューターによる判読技術は、わずかに劣るものの専門医の判読技術に匹敵すると言っていい。今後、学習を続けていけば、わずかな期間で、専門医と同等の、あるいは、凌駕するレベルに達することが確実だ。
呼吸数や心電図に関しては、スマートウオッチでモニターが可能だという。米国では、すでにFDAが承認しているという。日本では、「心電図の測定は医療機器に相当するので、心電図測定を謳うには、医療機器としての承認が必要だ」そうだが、まだ、取られていないという。
現実、インターネットで検索すると、米国で承認を受けたものでも、心電図を測定できるとは記載されていない。しかし、「スマートフォンと心電図」で検索すると、心電図を測定できるスマートフォンが販売されている。いかにも、日本的な現象だ。日本のルールを分かっていない人は何でもできるのだ。
心電図を取ることくらい、血圧や心拍数と同じくらいのレベルで簡便化して、スマートフォンに記録した心電図を医療機関で判定してもらう形にすれば、突発で、短時間に起こった危険な不整脈を見つけることができると思うのだが、それも簡単にはできないようだ。
技術の進歩は今後も急速に進むと思うが、さまざまな規制は戦後体制を維持している。患者の命を救うことにつながる役に立つ便利なものがあっても、それが社会で行かされない。自分の診療情報を自分で持つことなど、今の技術があれば簡単なはずだが、私には理解不能なしがらみが残っている。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。