1-2年前に比べて景気が良い話がなかなか聞こえてこなくなりました。開催中のダボス会議でも大企業や銀行のトップからは「先行き、いろいろなことが待ち構えていそうだ」といったトーンの発言が目立っています。日銀の黒田総裁も今週開催された金融政策決定会合で「米中の経済摩擦が長引けば、世界経済に深刻な影響が出てくる」と述べるなど気を引き締めさせるような発言がありました。
不安材料はいくらでもあります。アメリカ景気のピークアウト感に政府機関閉鎖の長期化、英国のEU離脱、米中貿易戦争など枚挙にいとまがありません。
ただ、専門家やトップが一様に示すのは難局だがリーマンショックのような状態にはならない、と指摘している点です。つまり、乗り越えられるという発想ですが、その根拠は金融機関の健全度は当時に比べてはるかに高く、監視の目も行き届いているから、と。
金融機関についていえば、個人的に一番注目しているひとつがドイツ銀行の行方であります。先日も同行がもたらす影響度は原爆級と申し上げました。ここに来てさまざまなニュースが飛び交っていますが、救済に向け、何かが起きそうな気配を感じます。救済ができるのかどうかはそのスキームによりますが、最新の情報ではドイツの銀行同士の合併(つまりコメルツ銀行)では弱い者同士である上にドイツ政府が深く関与するために功罪がありそうで、それを避けるために外国からの資本を大きく取り込んだ多国籍型銀行にしてしまうという案もあります。
ドイツ銀行は問題も多いですが、ドイツの一流企業、特に自動車産業を押さえているという点で資金を出す機関投資家も多そうでやり方次第ではこちらは解決の見込みがありそうな気がします。
一方、専門家らが楽観視しすぎではないか、と思われるのが中国経済の行方であります。統計では18年度のGDPが6.6%と発表されました。当初の予想とほぼ一致しますが、当然、そこには無理があります。一部の地方では経済成長率が実質マイナスともささやかれている中で、つじつま合わせにいよいよ苦労してきている感があります。
会社が倒産しそうなとき「自転車操業」という状態に陥ります。とにかく日々のやりくりで精いっぱいになり自転車をこぐ経営者の体力が尽きた時、パタッと倒れるのですが、どうも中国の疲弊具合はかなり深刻な状態になっているように感じます。
専門家は中国が経済危機に陥る場合のリスクをほとんど取り込んでいないように見えますが、こちらのリスクは原爆どころか、隕石が落下するほどの衝撃となる覚悟も必要だとみています。今、中国の非共産党系企業において国営化が少しずつ進んでいるというニュースがあります。民間企業が総崩れになる前に支えるべきところに支援をするという意かもしれません。
中国の個人が資金を投じた世界の不動産マーケットについても仮に資金引き上げの動きが出ればバブル崩壊どころではなくなります。中国人に人気のバンクーバーでも一部の高額物件では買い手が現れず売値がずるずると引き下げられる物件は増えています。
あえていやな話をもう一つするとすればトランプ大統領は国情が極めて不安定なベネズエラに対して野党代表の国会議長を暫定大統領として認めると発言、他の南北アメリカ大陸諸国も同様の動きを見せ、現大統領のマドゥロ氏は窮地に立たされています。そのマドゥロ氏とディールをし、巨額の資金を出したのが中国であります。理由は同国の石油資源であります。しかし、革命的政権交代が起きれば中国のベネズエラに対する野望も打ち砕かれる可能性が出てきます。
24日の日経新聞トップは「中国ハイテク生産急減 部品・装置、対中輸出ブレーキ」とあります。先日、日本電産の永守会長が「尋常ではない変化が起きた」と発言した直後、日経がこれは悪材料出尽くし、ボトムアウトのシグナル、といったトーンの記事を配信しました。これはやや意外感がある記事で永守氏を指標に見立てたあまり論理性のない内容だったと思います。
個人的には中国の崩壊だけは避けてもらわねば困ると思っています。中国と関係ない人にとっては同国がどうなろうが気にならないのでしょうけれど今の世界経済の枠組みの中で同国の影響度はリーマン問題の時よりはるかに大きく、予見不可能だと考えています。ここは無責任なことは言えないと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年1月25日の記事より転載させていただきました。