大坂なおみ選手をアニメで「白人化」と非難され、日清食品が謝罪 (BBC)
あの日清食品だけに、さらに残念
世界ランキングNo.1に王手という実力(1月25日現在)、そして誰もが大好きな、愛されキャラ”大坂なおみ”選手を起用しての大失策。しかも、”あの日清食品が”と、いうところがなんとも残念でたまらない。
”あの日清食品が”の意味は、日清食品こそが、近年日本の広告クリエイティブを間違いなくリードしてきた一社だからだ。
日清食品が覚醒したのは、1993年にカンヌ国際広告祭(当時)で「hungry?」シリーズがグランプリを受賞したときであろう。
カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(通称:カンヌライオンズ)は、著名な映画祭と同じカンヌで催される国際的な広告賞ということもあり、広告業界でも無類の権威がある。最近は日本のクリエイターも大挙してカンヌ詣でをしているが、この1993年の快挙当時は、まだまだカンヌライオンズの存在自体が広告業界にさえ浸透していなかったこともあり、彗星に直撃されたような衝撃があった。
その後の日清食品は、即席麺という非常に身近な商品を志高い広告表現でアピールしてきた。
AKIRAで有名な大友克洋氏を迎えて制作したアニメーション”FREEDOM-PROJECT”(2006-2008年)や、”SAMURAI,FUJIYAMA,CUPNOODLE”(2014年)、最近の「アオハルかよ。」キャンペーンなど、名キャンペーンを上げればきりがない。
商品特性を”ビッグアイデア”に落とし込んだ上で、ダイナミックに表現するアプローチは日本のクライアント離れしている。CM制作の打ち合わせ現場で「ほらほら、あのカップヌードルみたいな表現」と、何度引き合いに出されてきたことだろうか。
一方で振りぬいていく気合が、勢い余って中止に追い込まれた表現も多かった。2016年には、ビートたけしを起用して「いまだ!バカやろう」の言葉と共に自らが銅像となりコマネチを披露するCMが、中止に追い込まれもしている。
すでに日本人の1/50は、バイレイシャル(両親の人種がそれぞれ異なること)
しかし今回の件、性質的にはまったくシャレにならない。
社会的存在である企業として、人種問題という最もナイーブな事柄、つまり間違いを犯してはならい領域での出来事だったからだ。大坂選手自身は”気にしていない。なぜ騒ぐか分からない”とさすがのナオミ流リアクションで答えているが、PR用に企業が公開した映像である限り、日清食品としては世の中からの不快感や意図への疑問はおざなりにすべきではないだろう。
かつて昭和の時代1986年に、中曽根首相(当時)は「日本は単一民族」という歴史的妄言を吐き当時でも当然批判されたが、それから30年以上の時間も過ぎ、大坂選手を筆頭に日本人の50人の1人がバイレイシャルbiracial(ハーフという言葉には、差別的ニュアンスを感じる人も多い)の現代日本において、肌の色が問題になるわけもない。
実際に本原稿執筆中の今日1月25日も、翌日に控えた大坂選手の全豪オープン決勝進出の快挙を、ワイドショーで盛んに取り上げているが、日本人の代表として快哉を叫び、応援する声こそあれ、当然だがバイレイシャルであることをとらえての否定的なコメントなどは一切ない。至極、自然のこととしてバイレイシャルの日本人アスリートを受け入れていることが感じられる。
そんな時代であるからこそ、今更なにゆえ褐色の肌を白く表現する必要があったのか、意図がまったくわからないのである。ナオミ選手自身がすでに「私が褐色なのは明白。意図的にホワイトウオッシュ(白人化)などがされたわけではないと思う」とコメントしている(スポニチより)。
日清食品も「意図的ではない」とコメントしているが、意図があったらこんな騒ぎで済んでおらず、当たり前すぎる発言だ。
人口的に日本人に多い、黄色人種でもなく白く描く意図。謎としか言えないが、それだけにモヤモヤすることは否めず、多くの人が違和感や否定的な感想を持ったがゆえに、早速の中止と謝罪という事態になったのだろう。
一番根深い心配として恐れるのは、作者や関係者一同が、意図とさえ言えない、単純な白人優位の刷り込み(すごい選手なんだから、肌は褐色でなく白が似合うかも)で描いたものでないことだけは、願いたいものだ。
昨年末、ミスユニバース世界大会の米国代表が、カンボジア代表やベトナム代表を「英語も話せない」と嘲笑し炎上した事件があったが、偏見というのは、意図がない瞬間にこそ露呈しやすいものと考えている。
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日本も、多様性を担保するクリエイティブに配慮する時代へ
今回、日清食品から「配慮が欠けていた。今後は多様性の問題に、より配慮したい。」とのコメントがあった。世界に配給されるハリウッド大作映画を見ていると、かなり前から人種や男女を万遍なく配しており、歴史的な偏見や役割に基づいて描いていると万一にも受け取められないような配慮が徹底してなされている。
日本においても、今回のことをきっかけに制作時”多様性”をより担保、配慮する努力、工夫をしていきたいものだと自戒させられる事件であったことは間違いないと言える。
一方の日産自動車は、星野専務の判断でNISSAN GT-R NISMOを大坂選手に贈呈
一方の日産自動車は昨年末、大坂選手とアンバサダー契約を結ぶにあたって、”NISSAN GT-R NISMO”を贈呈していた。
まず、”NISSAN GT-R NISMO”という車種選択が良い。最初は電気自動車リーフの予定だったが、大坂選手がGT-Rが好きと言っているのを聞き贈呈を決めたとのこと。
(ちなみに、NISMO仕様は同じGT-Rの中でもさらに特別な車種で、通常のGT-Rをチューニングすることで別格の仕上がりとなっている。抜群のパフォーマンスながら、車高も一段と低く、乗り心地もかなり固められており乗るのに覚悟がいる仕様だ。)
確かに300万円代から買えるリーフと、1870万円の”NISSAN GT-R NISMO”では価格も全然違うのだが、高額なアンバサダー契約料金を考えれば、そこはあまり大きな問題ではないだろう。
ただ何よりも、大坂選手というトップアスリートに対する敬意が感じられる選択であることが、非常に素晴らしいと感じられる。
また、この贈呈を中心になって決めたのが、日産自動車の星野専務とのこと。星野専務は、日産が推進してきたダイバーシティの象徴であり、女性としての出世頭。旦那さんが星野リゾートの星野社長であり夫婦そろって活躍していることでも有名である。
最近何かと暗い話題が多い日産自動車ではあるが、ダイバーシティつまり性的・人種的・年齢的・ハンディキャップ等人間の個性、多様性を肯定的に企業活動に入れる活動を実践・実現している企業であることは間違いがないのである。
(秋月涼佑過去記事) 何ゆえそんなにハードコア。日産事変に思うこと
このキレッキレッの車種選択。おじさんばかりで検討していたら、トップアスリートとは言え運転に慣れていない若い女性にはもっと乗りやすいクルマを、などと余計なパターナリズムがあったかもしれない。
女性専務だからこそと感じる、トップアスリートにぴったりの超硬派ハイエンドスペックマシーンを贈呈しようというその判断。
大坂選手のサービスエースのような爽快感を感じるのは私だけだろうか。
秋月 涼佑(あきづき りょうすけ)
大手広告代理店で外資系クライアント等を担当。現在、独立してブランドプロデューサーとして活動中。