四面楚歌だったFRB、パウエル議長の心境

年初の10大予想で有名なブラックストーンのバイロン・ウィーン氏は今年の予想でFRBは利上げをしない、としていました。氏の予想は当たるべくして予想するというより「そういうことも考えうる」という視点で想定しています。そのウィーン氏、今頃はワハハッと思ってるかもしれません。

私がカナダの老齢年金用で昔買ったまま放置してある投資信託の成績表が3か月毎に来るのですが先日、10-12月分の報告書を開けてびっくり。3か月で10%も下がっているではありませんか?過去10数年、放置していますが、こんなに下げた記憶はありません。

2018年はファンドマネージャーにとっても悪夢のような一年でした。著名ファンドでその運用額を半分とか3分の1に落としたところが続出、閉鎖したファンドも数百に及びます。特に12月クリスマス前の最後の一撃は市場が薄商いのところでボコボコにされたようなものでノックダウンとなったものもあります。

トランプ大統領はFRBの独立性を尊重しなくてはならないものの場外戦に持ち込みたかったのか、ツイッターでヤジを飛ばし続け、リング上のジェローム・パウエル議長は耳栓をして聞こえないふりをし続けました。

パウエル議長はある意味、トランプ大統領の「口撃」に意地になっていて冷静さを欠いていたように思えたのが2018年12月のFOMCでした。ところがパウエル氏の敵はトランプ氏だけではなく、ファンドマネージャーなど市場専門家を窮地に陥れ、国民が401Kなどを通じて株式で運用する年金のリターンを悪化させます。GAFAと称するハイテク銘柄では「金利が上がればハイテクの株価は下がる」という法則を見事に反映し、3割、4割引きは当たり前、半値以上下げたものもありました。

ところがパウエル議長の態度が豹変したのは1月4日の歴代FRB議長との懇談会。この席にはバーナンキ、イエレン両氏が出席、パウエル議長はその席で明白なる方針転換の発言をします。「忍耐強く対応する」と。この180度転換したパウエル氏の背中を押したのはFRBというプライド一杯のソサイエティで「先輩の助言をありがたく拝聴する」という姿勢でした。

1月30日 FOMC公式動画から

1月30日 FOMC公式動画から

1月29-30日のFOMCはどういう声明になるのか、大変注目されましたが事前から「年内の利上げ確率は2-3割」という見方で一致、朝から株価は上昇し、声明が発表された際には「このままでいけば19年は一度も利上げがない」というところまで「妥協」したのです。これを受けてGAFAなどのハイテクや金(ゴールド)は大きく上昇、2月相場にバトンを渡したという感じに見えます。

ところで数日前、私の長年の友人から「アルゴリズムとAIを組み合わせた新たな株式の自動売買システムができるのだが、お前も一口乗るか」と誘われました。彼曰く、「このアルゴリズムによる売買システムは今のところ、100%当たっているんだぜ」と息巻きます。参加するには最低でも数千万円単位なので冷やかし半分に「ならば今、アップル株はどう判断している?」と聞くと「ショート(売り)で132ドルになったら買いだ」といいます。その日の終値は約155ドル。彼の100%当たるAI君はどうなったかといえばまるで逆の方向に走り翌日は161ドル程度で寄り現在は166ドルまで上げています。

18年末、著名ファンドマネージャーが続々と店じまいをしたり、顧客に顔を見せられないほど打撃を受けたのが株式市場です。AI君が100%当てられる、とすればAI君同士の戦いはどうなるのでしょうか?あるいは次の1分間の予想は正しくても1時間後、1日後、1か月後の予想はできないでしょう。なぜなら人間という欲と機械で判断できない行動をする投資主体が介在するからです。いわゆる行動経済学の分野であります。

パウエル議長はデータベースにアメリカ経済は堅調だ、と思い続けました。その後のデータが激変したわけではないのに180度方針転換したのはデータといいながらそれを読み込むのは人間、そして最後はもっと人間チックな決定をしたのだ、という点に注目しています。それは欲、防御、メンツ、プライド、プレッシャーなど様々な気持ちの中身が人間パウエルに容赦なくアタックするから、ともいえるのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月1日の記事より転載させていただきました。