1月27日放送のTBS系「噂の! 東京マガジン」に出演しました。昨年6月に行われた中野区長選では、中野サンプラザ(以下、サンプラザ)の解体問題が争点になりました。解体を主張していた前区長が敗れ、計画の全面見直しを訴えた新区長が誕生します。ところが3カ月後、新区長はサンプラザの解体を進めると発表しました。番組では、新区長と前区長の2人を直撃します。筆者は、「政治家の言葉」をテーマに解説しました。
問題の中野区長選挙とは
中野区長選を報道したメディアを確認してみます。毎日新聞(2018.6.15)には、「新区長が初登庁 サンプラザ解体、凍結表明」と大きく書かれています。「酒井氏は就任会見で、区長選で争点となったサンプラザ解体や1万人収容のアリーナ建設などの中野駅北口整備計画について『一度立ち止まる』と述べ、凍結を表明した」(原文ママ)とあります。
酒井区長(新区長)は「サンプラザは『再整備する』という公約で、残すとは公約していない」と主張します。再整備とは、サンプラザを壊して再整備するという意味のようです。それならば、最初からサンプラザを壊して再整備すると公約すればよかったのですが、有権者にそのように伝わっているとは思えません。
「サンプラザが老朽化しているから解体する」、という声があります。しかし、新耐震基準もクリアし、建築基準法に違反した建造物ではありません。老朽化を論点にするなら、他の老朽化したビルと比較して何が問題なのでしょうか。
どのような演説をしていたのか
YouTubeに「中野に一万人収容アリーナと公式で使えない陸上トラックはいらない!!~中野区長選 酒井直人候補・中野区議補選 杉山司候補 街頭演説~応援 立憲民主 枝野幸男代表、蓮舫副代表、長妻昭代表代行 18.6.8 – 31.01.2019, 13_36」という動画がアップされていたので紹介します。
蓮舫副代表の応援演説は、4分50秒からはじまります。中野区の待機児童が6番目に多いことを挙げて、少子化、高齢化、社会保障の増加など、もっとお金がかかる施策があることを説明します。そのうえで、1万人規模のアリーナが必要か、収入だけでやっていけるのか、行政が考えるべきは宴のあと(オリンピックのあと)だと力説します。
枝野幸男代表の応援演説は、7分29秒からはじまります。サンプラザは若者にとってあこがれの舞台であること。2000人規模のホールは時代に適合した理想的なサイズであること。中野の街とマッチしてブランド力があることを力説します。さらに、中野区民のために、安泰な区職員の職を辞して立候補したとべた褒めです。
筆者は中野区民であり有権者の1人です。今回の争点は「サンプラザ建て替えの是非」です。これは、蓮舫副代表も有権者の前で話しています(5分58秒頃)。サンプラザが老朽化して多くの費用がかかる、という声がありますが、これは選挙前から分かっていたことです。これでは安易な解体は受け入れにくくなります。
不可解なサンプラザ解体
選挙戦で、酒井区長(新区長)がサンプラザの解体を明言していたら結果はどうなっていたでしょう。筆者は、サンプラザ解体には反対の立場です。これは、古いものに対してノスタルジックに浸っているのではありません。解体決定までのプロセスが不透明だからです。
政治家が言葉を使い分けること、これは大切なスキルです。しかし、有権者にとって裏切られたような印象を残すことは好ましくありません。信頼感が揺らいで政治不信につながる危険性があるからです。言葉の解釈で押し切っても有権者は納得しないでしょう。政治家の説明は具体的でなければ説得力がありません。
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
<筆者12冊目の書籍、4月18日発売>
『波風立てない仕事のルール』(きずな出版)