米国のINF(中距離核戦力全廃条約)脱退については、「軍拡競争が懸念される」というコメントが多いと思うし、それ自体はその通りだと思うが、そもそもは、ロシアのINF違反の新種中距離ミサイル開発(SSC8)と、INFに縛られない中国が大陸間弾道ミサイル(ICBM)から新型の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦まで新種の核戦略能力を増強してきたことに対抗するためである。
INF自体は射程が500km(300マイル)から5,500km(3,400マイル)までの範囲の核弾頭、及び通常弾頭を搭載した地上発射型の弾道ミサイルと巡航ミサイルの廃棄を米ロ間で約束したものだ。なので、運搬手段の規制ではあるが、念頭にあるのは核である。
大体、米国が一昨年発出した米国国家安全保障戦略(NSS:National Security Strategy)や昨年発出した核戦略の態勢(NPR:Nuclear Posture Review)において既に、「米国が核削減努力をすれば世界の核不拡散を進めることになると考えていたが、現実は逆で中ロの核増強が進んだ。つまり、米国の核削減の努力は模範として機能しなかった。」と過去の米国の見方を反省し、「米国はロシアの INF違反に外交的・経済的・軍事的手段で対抗し、米国も対抗して同種のミサイルの開発について研究する」旨発表していたわけで、まさにその通り実行した格好だと思う。
中国やロシアは、今回の米国の動きに呼応して、さらに核ミサイル能力を高める方向に動くだろうし、米国は、宣言通り、小型核や新型中距離ミサイルの開発に乗り出すと思われる。
抑止力の本質は、「攻撃したとしても必ず反撃されて攻撃により得られる利益以上のダメージを被ることになる」と相手に確信させることにより、攻撃そのものを思いとどまらせるということにある。
米国の核抑止力に依存する日本として、より日本が安全になるかどうかという点を考えれば、米国が中国やロシアに対抗する核抑止力を高めることは日本の安全保障にとっては良いことではないのか。バランス・オブ・パワーのパワーの中核は、軍事力なのだから。
なお、米国のINF脱退に触発されて、中国も含む形の新たな軍縮枠組みができるも良しと思うが、中国的発想からすればそんなものに乗ってくる可能性はかなり低い。中国やロシアが多国間軍縮枠組みに乗るとすれば、その方が有利だと思った時だけ、つまり、米国の能力に対抗できないと思ったときだけなので、それまで米国の能力向上は進まざるを得ないように思う。妥協というのは、それ以上事態が進むより今妥協して手を打った方が良いと思うときにか成立しないものだ。残念ながら。
編集部より:このブログは参議院議員、松川るい氏の公式ブログ 2019年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、「松川るいが行く!」をご覧ください。