日本人は改良をするのが得意だと言われています。トヨタの「カイゼン」という言葉は外国でも通じるほどですが、英語で改善を意味する単語、improvementをあえて使わないのはトヨタ式カイゼンに深い意味があるということでしょう。そして往々にしてそれは日本的カイゼンを意味します。
しかし、カイゼンとは既存の製品、フォーマット、商品、サービスなどを改良することであり、本質的には元が一番大事なのであります。例えば自動車の場合、新型車が出るのが「元」でモデルチェンジは「カイゼン」であります。
日本の場合、ヒット作をマイナーチェンジさせながら延々と引っ張るのは企業資産の上手な運営方法であります。他方、企業はサラリーマン的な保守的姿勢になり、新たなことをやって失敗するより今の成功を守る方がリスクが少ないという発想が背景に生まれてくることも事実です。
とはいってもマイナーチェンジにも限界はあるわけで、ある日突然ライバルに追い越されても社内に新たなものを生み出す社風が残っていないと全くついていけない状態になります。かつてのキリンとアサヒのビール戦争がその好例だったと思います。いわゆる成功体験です。
1月14日号の日経ビジネスに「10年後のグーグルを探せ」という特集がありました。これは瞬きを惜しむほどワクワクさせる内容でした。世の中をすっかり変えるかもしれない数々のビジネスモデルが紹介されていますが、それは既存ビジネスのフォーマットを変えるという原点があります。そして、それを顧客が受け入れる土壌があるかがその普及のキーを握っていると言えそうです。
日本に未上場で10億ドル以上の潜在価値のあるユニコーン企業は現時点でプリファード ネットワークスのたった1社しかないという現実は何故でしょうか?世界にユニコーンは現時点で237社、そして半分がアメリカ、4分の1が中国企業とあります。私はしばしば日本の大企業体質について苦言を呈していますが、新興企業の成長も芳しくないのはなぜなのでしょうか?
一つは国内市場の規模があるでしょう。ただそれ以上に顧客が新しいものを試してみるという風潮は大事だと思います。そしてその利用者が真摯な意見をすることで新興企業側が走りながら精度を高めレベルを上げていくという仕組みがニュービジネスをサポートします。
例えば日本の場合、企業側の勝手な自信で完成されたと思われるものを市場に送り出そうとします。しかし、企業側が「完成」という時点でその後には上述の「カイゼン」しか残っておらず、「元」を変えることはできません。グーグルなりアマゾンは7割のレベルで市場に打って出て、市場との対話を基に精度を上げていく仕組みとなっています。言い換えれば、あれほど巨大化したのはいつまでたっても「元」の状態にあるから、と言えないでしょうか?
巨大化できる企業には完成という言葉はなく、元がどんどん変質化していきます。よって日本型カイゼンとも違うのでしょう。
日本の宣伝のキャッチに「完成された輝き」「未来系の完成」…といった「完成」を売りにするセールストークを時折見かけます。しかし、完成といった瞬間、それはそれ以上ない、ともいえるのです。
世の中の変質化はより激しくなってきています。一つの製品やサービスのライフは数年から長くて10年という時代になってきています。ならば、今の完成ではなく、時代の流れにサーフィンする、つまり、波に乗り続けるという経営スタイルに変わることが日本企業は輝きを取り戻す第一歩ではないかと思います。また、波乗りは気を緩めるとすぐにひっくり返る、という意味も感じてもらいたいところです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月5日の記事より転載させていただきました。