不動産の仕事を日本、アメリカ、カナダで20代半ばからやり続けていますが、マンション(コンドミニアム)ライフは現代社会にとっては極めて都合がよい居住空間を提供しているとされています。一つは駅や繁華街、ビジネス街に近く職住接近を実現できること(日本はまだそこまで行きませんが)、高齢者が戸建て住宅の管理や安全面から解放されること、戸建てに比べてバリアフリー状態に近いことなど様々なメリットが指摘されています。
そんな便利なマンションライフですが、カナダでは管理組合で揉めるケースがあちらこちらで見られるようです。理由は何をどこまで管理するか、という管理組合の基本姿勢にあるようです。白人の方は往々にして資産となる住宅になるべく手を入れ、長く使え、ひいては価値が上がるようメンテにお金を投じます。ところがアジア系、特に中華系の方は月々のメンテ代は極小にしたいという願望があります。
好例は植栽でしょう。一年草は見た目が美しいのですが、管理費はかかります。極端なケースでは植栽をほとんど止めたいという意見と見た目の美しさにこだわる派閥で揉め続けているところもあります。
日本では誰もやりたがらない管理組合の役員を中華系の人は積極的に引き受けながら自分たちの主張を強く押し出す傾向があるように見受けられます。もちろん、管理費を削減するためです。これが管理組合のもめごとの一原因になり、管理が非常に難しくなってきたと言われる現実であります。
たまたま私がカナダで住んでいるコンドの管理組合はメンテを十分に施すという趣旨に賛同する方が多く、大型の投資やメンテ工事はよく行われています。外壁の塗り替えを7年ごとにやるなんて日本の管理組合が聞いたら卒倒するでしょう。(それゆえに物件価値が10年で2倍になるともいえるのですが。)
そんな中、日経に興味深い記事がありました。「マンション『空き家』深刻 管理組合なく修繕もできず」であります。日本のマンションに居住者がはっきりしない空き家が増え、また物件によっては管理組合すら存在しないものもあり、結果として建物のメンテが出来ず、ボロボロになるケースが増えてきているというのです。
このようなマンション問題は20年以上前から指摘されてきたのですが、行政もデベロッパーも積極的に本件に取り組む姿勢を見せていません。 確かにマンション建替え円滑化法などは改正されるごとに建て替えや大規模改築がしやすくなるのですが、ルール上、それが許可されても実際にそれをやるとなると大きなハードル待ち構えています。
その一番が資金面でしょう。協力しないという方からどうやってその資金を徴収するのか、あるいは一時的な不自由に賛同しないという方もいるでしょう。さらには居住してない所有者と連絡が取れなかったり、相続の結果、複数の人の持ち分になり、誰の承諾を得たらよいのか分からなくなっているものもあります。
「マンションは買うまで楽しく、住んでみたら管理費と修繕積立金に苦しみ、売却した時、ほっとする」という標語は私が勝手に作ったものですが、マンションのように共有部がやたら多い不動産物件はどちらかというと居住権方式の方が確実にワークするはずです。
私なら所有権ではなく、リース方式が今後の日本の集合住宅の在り方になると思います。(実際に東京の戸建て物件で実験的に進めています。)リース方式のメリットはリース期間(10年なり20年なりの期間)が明瞭であること、所有者と居住者の権利義務もはっきりする点であります。これにより物件の維持管理は所有者が一元的に行え、世界中で抱える管理組合という面倒な悩みは解消できるでしょう。
私がよく申し上げているように発想の転換だと思います。不動産は賃貸か所有かという仕切りの中で別の方法もあるだろうと思うのです。それをデベロッパーの誰もやらず、「売り切り、さようなら」という利益至上主義の姿勢がよく見えてしまうのです。
今は所有の時代ではありません。家を所有する理由は老後に安価で住む場所の確保という意味かと思いますが、管理費、修繕積立金、固定資産税…を考えるとマンション所有が必ずしもパーフェクトな答えではなくなる時代は確実に来るとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月7日の記事より転載させていただきました。