泉前明石市長が私との電話で振り返った、あの日の心境 --- 井戸 まさえ

「メッセージ、ありがとうね。記事、読みました」
携帯電話の着信画面に「いずみふさほ」の文字が浮き上がる。「パワハラ暴言」で渦中にある泉房穂前明石市長だ。出てみると、いつもの「三倍速」ではなく、静かに冒頭の言葉を口にした。

記者会見で意気消沈した表情の泉氏(NHKニュースより:編集部)

泉氏と私は公私ともに長年の付き合いである。ただ、今回の「音声テープ」で流れた暴言は、DV等の相談・支援をしている者にとっては到底許されないものだった。また、選挙を控えて他陣営から「狙われている」ことは重々承知のはずなのに、わざわざ罠にひっかかるという迂闊さも同じ政治家としてはどうかと思う。そんな趣旨の記事を書いた。まさに「リーダーとして資質を欠く」と泉前市長が自らを評した通りである。

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一方でマスコミに追及されて疲弊している姿は見ていて辛かった。騒動後まもなく、兵庫在住の友人たちとも連絡をとって「話し相手が必要になったら、(私たちに)いつでもお電話ください」とメッセージを入れておいたのだ。

「もともと、土木に関しては苦手意識があってん。得意じゃない。だから任せてしまった。あれは『怒る』場面じゃなくて、『学ぶ』場面だった」

泉氏は今回の暴言をそう振り返った。土木関連に対する「苦手意識」…確かに、得意分野である子どもに関する分野や、福祉関係等は自分でぐいぐいやる。人任せにしてはいない。土木は苦手意識から担当部署に任せきりになり、その自分をごまかすためにも報告を聞いて激怒する。もっと前に説明を受けて自らも知識の蓄積をし対処していたら、暴言も起きなかったかもしれない。

泉前市長は就任してから子育て予算を2倍にし、担当職員は3倍にした。一方で土木予算は大幅削減、人員も減らした。結果、土木関係は役職ポストも減ったため、職員の昇進ができない状態にもなっていた。不満が溜まって当たり前だった。

音声テープを取られていたことは「全く気付かなかった」という。「部下の気持ちもわからんと、ダメやね。ほんま、ダメやわ」。

アンガーマネジメントの講習も受け始めたという。気づいたのは、怒りをがんばりのエネルギーにし、さらに他人にぶつけてきた自分の姿だ。「そんな自分を放置してきたんよ」。

政治家の暴言等は泉前明石市長の問題だけではないことも指摘してきた。リーダーの資質や責任の取り方が問われる中で、泉前市長が今行なっていることを市民も、国民も伴走することで見えてくる部分があるのではないか、と思っている。

通常、私は二人だけの会話は書かない。
しかし、泉前市長の了解も取った上で彼が失敗の後にどんな状態で、何を行なっているかを多くの人々と共有したいと思う。

井戸 まさえ  ジャーナリスト、元衆議院議員
1965年生まれ。東京女子大学卒。松下政経塾9期生。5児の母。三重大学、関西学院大学非常勤講師等を歴任。東洋経済新報社を経て、経済ジャーナリストとして独立。2005年より兵庫県議会議員。2009年、衆議院議員に初当選。無戸籍問題他、法の狭間で苦しむ人々の支援などを行う。第13回開高健ノンフィクション賞最終候補。2015年貧困ジャーナリズム賞受賞。公式サイト