「安易な水道事業民営化」が生み出す地獄とは?

吉岡 慶太

東京都北区議会議員の吉岡けいたです。

水道事業民営化導入を可能とする「水道法改正法案」2018年12月6日に衆院本会議で可決されました。

すぐに自治体が運営していた水道事業が民営化となる訳でないにしろ、自治体が水道施設を所有したまま運営を民間企業に売却できる「コンセッション方式」が可能となり、今後、民間運営に切り替える検討を始める自治体がでてくるでしょう。

  • 「安全性の保障が無くなり、今後、老朽化した排水管の管理が不安」
  • 「水道料金の値上げ、自治体間の料金価格差が進む」
  • 「海外での水道事業民営化は失敗続き。フランスでは再び公営化に戻した!」

など、今までも疑問、不安と感じる事項が指摘されてきました。

今回は、さらに上記と違う視点から「安易な水道事業民営化は地獄の市民生活を強いる」リスクをお伝えいたします。

写真AC:編集部

リスク1:水道事業への議会チェックが効かなく(難しく)なる!

地方議員の役割は行政のチェック機能です。

例えば、自治体から8千万円の水道事業工事が提案され、それを他市区と比べ見積り調査などで高すぎることを予算審議委員会で指摘し、数百万円の税金支出を抑えることが可能です。

さらに、水道事業に関する工事計画、工事における住民苦情の把握、工事計画と基本計画の整合性など、水道事業全般にわたる予算、内容について事業資料を自治体に要求し提出させられます。

そのうえで調査を行い、議会での質疑が可能です。

しかし、民営化、あるいは水道事業にコンセッション方式が導入された場合、運営が民間企業となるため、議会チェック機能がどこまで働くのか不透明となります。

その結果、予想されるのが、責任の不明瞭化です。

例えば、日本年金機構から委託を受けた会社がデータ入力の再委託をさせ、その結果に数千件の名義不明問題が生まれ、「消えた年金」として大きな問題が生まれた事例など多数あります。

事業そのものは自治体が所有し、管轄するといっても、データや運用について民間化、委託化、さらに下請けへの委託が進めば、責任の所在が見えにくくなり、議会チェック機能が働かないリスクを考えるべきです。

リスク2:最後のライフラインが民営化された場合、福祉的支援は保障されるか不透明

ここについて考える論点は今まで他でされていないように感じます。

現状ですが、水道料金と下水道料金基本料は福祉的観点から一部免除がされています。

「生活保護受給者」「児童扶養手当または特別児童扶養手当」の受給者ほか対象に料金の免除がされてています。

電気、ガスが止まっても生活できますが、水は最後のライフライン。コンビニで買えばよいという声があるかもしれませんが、大震災時には商品補充が保障されません。だからこそ、最後のライフラインです。

民営化された場合、福祉的支援が継続される保証はありません。

もし、料金的に福祉支援が継続したとしても、ライフラインである水道について、必要な手続きサポートとしては窓口機能が残るかどうか不明です。

現在、東京で言えば東京都水道局窓口として区部にそれぞれ営業所があり、平日9時から17時まで職員がいて、相談や料金支払いができます。

東京都北区で言えば北営業所(北区赤羽台3-3-21 03-5963-6030に平日でも窓口で手続き、申請、困りごとの相談が可能です。

民営化、コンセッション方式が導入された場合、ライフラインを守る対応、支援はあるのか?

予想ですが、窓口は無くなり、コールセンターに一本化、無人化が進むと当方は考えます。

問合せもAI化、ネット手続き推奨、音声テープによる対応となれば、障害者世帯、高齢者が水道に関する手続きで取り残されることが想定されます。

す。民営化、経営合理化とは福祉的見守り機能を切り離し、情報弱者の切り捨てとなる面が生じることは否定できません。

ネット決済、電子決済が当たり前になり、キャッシュレス化が進み、スマホとタブレットによる手続きが主流になる民間運営の中で、水道利用についても同じとなれば、手続きが難しい高齢者、障がい者のライフサポートは誰が支援をするのでしょうか。

リスク3:水道管破損事故は商店買い物、市民生活に直結する危険あり

2018年7月、東京都北区西ヶ原の商店街近くで地下の水道管に亀裂が入り、周辺に水があふれ出ました。

地下の水道管に30センチの亀裂が入り、5時間後に止められました。15戸に影響があり、商店街での営業再開ができない店が多く生まれ、数週間、区民の買い物に影響が生じています。

この事故で特筆すべきは、午後11時過ぎの事故であったこと。50年以上前に設置された鉄製水道管の亀裂が問題であり、つまり、水道管は深夜だろうと明け方だろうと、いつ事故となるかもしれないリスクがあることです。

東京都水道局が24時間体制で緊急要件に対応できていたとしても、民営化、コンセッション方式となった場合、どこまで事故に緊急対応されるのか、明確にルールを示されなければ、安心して生活ができません。

北区西ヶ原の事故は、すぐに修理対応が早くされましたが、それでも5時間かかっています

これが、対応がされず、浸水放置された場合、損害賠償など被害額は計り知れません。

世界約200か国調査によると、「そのまま水道水が飲める」国は日本を含む9か国のみ(全体の5%)であり、半数以上の150か国近くがそのまま飲めない、飲まなほうが良い水質となっています。

水に対する信頼度、安心度が高いからこそ、守られてきた日本の生活。ここの根底が揺らぐことになれば、市民生活の安心は保たれません。

結論と解決提案

水道事業の民営化=危険・生活の低下と決めつけはできません。

民営化によって得られるメリットがあります。

既存債務の削減、経営の効率化、顧客サービスの向上、行政組織のスリム化が期待できる面もあります。

しかし、安易な民営化、自治体が管理運営を民間に責任転嫁をする姿勢は、市民生活に多大なるリスクがあると、当方は訴えさせていただきます。

日本全体の水道管路延長は約62万㎞、東京都では約2万7千kmであり、ニューヨークの約1万km、パリの約2千kmに比べ、管理する労力と費用は膨大です。

その管理運営を民間化するという決定は、国民生活に直結する重大なこととなります。

まず、民営化決定する前に、議員・市民・関係機関が関心を高め、問題ない手順と方法を国と自治体にしっかりと求めていく必要があります。

吉岡 慶太  東京都北区議会議員(無所属)
区職員(23年間、生活保護ケースワーカー10年他)を経て、2015年から現職(1期目)