小野寺元防衛相が2月5日夜のBS日テレ「深層NEWS」の中で、韓国に対して「同じ土俵で戦わず、丁寧な無視が必要だ」と発言されたが、それが正しい判断であるかは賛否が分かれるところだろう。筆者は小野寺元防衛相の自衛官に対する政治姿勢には共感しているものの、あえて厳しいことを言うなら「悪手」だと思う。
「丁寧な無視」は日本語の語感として馴染みがない言葉であり、国際政治の文脈で使われるBenign neglectの意訳だと推測される。国会での発言中にこの問題に関するマイケル・グリーンCSIS副理事長の中央日報への寄稿内容などを引用しており、米国通の政治家としても知られる同氏であればこその発言と言える。
1月7日国防部会・安全保障調査会合同会議での「この問題を見過ごせば自衛隊員の政治不信につながる」「日本が協議の継続を求めているのに対し、韓国はレーダー照射の事実を認めず、低空飛行に対する謝罪を要求している。日本の対応は明らかに弱い。しっかりと反論すべきだ」という言葉からは若干勢いが後退しており、おそらく1か月の間に米国側とも意思疎通をした上での「丁寧な無視」方針であることは、その用語選定からも推して知るべしといったところか。(あくまで意訳だろうという理解は筆者の見立てであり、小野寺元防衛相が米国との調整ができるだけの能力を有された方であろうことに鑑みた話だが…。)
今回の場合の用語意図は、大国が小国の無礼な振る舞いや関与しがたい野蛮な国の行動を無視して、彼らが悪評を立てながら自壊するのを待つ、ということであろうから、日本が駐韓大使を一旦引き上げたり、防衛交流などを中止にしたり、という現状をうまく表現しているとも思う。
しかし、「丁寧な無視」方針は相手国にとっては日本側の反論がトーンダウンするというニュアンスも与える。また、実際には、防衛省が韓国艦船からのレーダー照射の証拠の一部を開示して実務者協議打ち切りを宣言した際の継続的な対応とも言える。結果として、前回の場合、韓国は日本側が過剰に反論しないことを理解した上で、日本の哨戒機の威嚇行為などをでっち上げて泥仕合化に持ち込み、今回も同様の趣旨の発言を繰り返しつつ、更に国会議長が慰安婦問題で天皇陛下の謝罪を求めるに至っている。(既に慰安婦合意の際に日本政府が軍の関与を認めて、安倍首相が心からお詫びと反省の気持ちを伝えているので、それよりも上の存在は天皇陛下しか残っていない。)
つまり、韓国は日本側からの反撃が限定的なものになることを見越した上で宣伝戦を展開していることになる。そして、韓国の米国におけるロビイスト予算も世界屈指であり、彼らの国際広報力を甘く見ることは間違っている。小野寺元防衛相が丁寧に無視している間に、敵側は既成事実を積み重ねて、氏が言うところの国際社会が関与することを躊躇うような面倒臭い状況を作り上げることになるだろう。
有難いことにマイケル・グリーン氏はレーダー照射問題では日本側の主張を認めてくれているようであり、同氏の意見ではアジア・太平洋諸国も日本の主張に理解があるらしい。しかし、これは米国の1つの有力シンクタンクの副理事長の意見(しかも反トランプ派の中心メンバーだった人物)であり、それが真実であったとしても、日本が正しい=日本が国際社会に舐められない、ということではない。国際社会を構成する各国から見て日本の態度は「正義の弱者」として映ることになり、自国が侮辱された場合に圧倒的に正しい時ですら形式上の抗議以外は何も強く出ない国として認識されるだろう。
また、米朝が急接近する中で自国の北側の脅威を失った韓国軍は、日本にとっては新たな脅威として認識するべきだ。韓国の軍事費は急速な伸び(日本がほとんど伸びていないので)を示しており、日本も中期的には上回ることになるだろう。この国が日本に対して何らかの軍事的威嚇行動をとってきたときにどのように対応するのか想定するべきであるし、予め同国の防衛産業に制裁を加えて弱体化を図っておくことは重要だ。
「丁寧な無視」は日本の国益というよりは日米間の三か国連携を強く求める米国の国益に寄り添った範囲内での日本の行動だと思う。
筆者は韓国国内の親日的な勢力が政権を奪うことで日韓関係が改善することを願うものである。しかし、上記の理由から韓国に対する「丁寧な無視」は愚策であり、同国に積極的な反論や制裁措置を実施するべきであり、韓国軍台頭に関する「事前の予防措置」はいかなる場合でも講じるべきものと考える。
編集部より:この記事は、The Urban Folks 2019年2月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。