メルカリの店舗版 ⁈ シェア経済、こんなところにも

岡本 裕明

2月6日付の日経の首都圏経済欄に小さな記事があります。「ジェクトワン、豊島区にシェアキッチン 飲食店の起業支援 」。ハッと見て、なんだ、こんなものも記事になるのか、と思ったのはこのシェアキッチンを提供する建物はかつて私が買収を試みた案件だし、今回のアイディアも不動産会社を通じてもよく聞いていたからです。

この物件についてはその不動産屋がシェアキッチンをやれば豊島区からの補助金が出るのでビジネスとして導入しやすい、と言っていたので事業化したケースとも言えます。

豊島区は4年ちょっと前、日本創成会議の調査発表で消滅可能都市と指摘され、区は総力を挙げてその悪評脱却を図っています。その結果、なかなか変わらない区のイメージはだいぶ変わってきたとされ、待機児童はゼロと23区では圧倒的に子育てにやさしい街になっています。池袋も住みたい街で常に上位にランクされます。

話は飛びますが、豊島区の課題はまだまだ多く残っています。例えば古い木造住宅が立ち並び、火災や緊急時の避難の問題があります。そのため、区内の一部の地域を対象に「戸建て建替え促進助成」と称するプログラムを展開し始めました。これは建て替えに伴う古家の取り壊しについて最大1000万円まで助成されるのです。また、取り壊しだけでも助成金は出ますし、店舗付き住宅を新築する場合は別途に上限100万円の助成が出ます。

こう見ると大盤振る舞いのように見えますが、私は都市の活性化にはよい取り組みだと思います。一般的な古家を壊すのには200万円ぐらいかかりますが、このお金がなく、かつ、壊せば固定資産税の税率が上がり、壊したくないというジレンマを解消するため、新しいものを建てよう、そして、店舗を作り、明るく、活性化した賑わいとを取り戻そうという意気込みが見て取れます。

その中でキッチンシェアという発想は最近始まった新しい取り組みです。背景には廃れつつある商店街の活性化がその戦略的背景にあると思います。飲食店をやってみたいという方は案外多いものです。特に主婦の方で腕自慢の方は「ちょっとやりたい」という人も多いでしょう。あるいはそば打ちをする週末起業のリタイア層の方もいらっしゃるはずです。

ところが自分で店を構えて週6日営業すると思えば資金も自分への拘束時間も半端ではありません。ところがこのシェアキッチンは時間や日数で借りますので極端な話、週末だけとか、月曜と水曜日の午後だけといった選択肢が取れるのです。賃料は時間当たり1000円-2000円程度ですので稼ぐというより生きがいを見つける楽しみという感じでしょうか?

キッチンシェアはこの物件だけではなく、東京の他のエリアでもぽつぽつ出始めており、多分、3年-5年でかなり増加するビジネス形態になるかと思います。(残念ながら、聞き取り調査をした限りでは現時点ではほとんど商売になっていませんが。)

似たような取り組みをしているのがJR東日本の「マンスリースィーツ」。これは駅の構内の一角ある数坪の店舗をケーキ店などスィーツの販売拠点として貸し出し、それが月々に変わるというものです。これも一種のシェア経済です。この場合、いつも同じ店だと陳腐化してしまいますが、月々変わればメリハリがでて客がつきやすくなります。

商店街の一角に年中「閉店セール」の看板が出ているような店を見かけたことがある方もいらっしゃるでしょう。あれも不動産シェアの一つで店舗を数カ月とか半年単位で貸し、そこで物販を行い、ある程度飽きられたら、次の場所に移るという遊牧民族的ビジネスであります。

皆さんの近所で新しい店が出来たら「覗いてみようか」という気は起きると思います。一度行ってもういい、という人がいたとしても「一度は行く」という経済効果は初期のころほど大きく、それは「インパクトビジネス」と申し上げてよいかと思います。

ビジネスの形態も変わる、シェア経済もどんどん進化する世の中となりそうです。メルカリの店舗版と言ったらよいのでしょうか。面白い時代になったと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月10日の記事より転載させていただきました。