モノづくりニッポンからアイディアづくりニッポンへ

日経にパナソニックの津賀一宏社長のインタビュー記事が掲載されています。そのタイトルは「モノ作らぬメーカーに パナソニック・津賀社長の危機感」とあります。ん、パナさんもようやく気が付いたのか、と思っています。(ただ、私の記憶が正しければ津賀社長は同じようなことを1-2年前にもどこかで発言していたように思いますが。)

モノづくりニッポンをその覇権主義のようにとらえていたのは10年前まででしょう。日経ビジネスも90年代から00年代ぐらいまで何度となく主張し続けてきましたがこの数年はそのトーンがまったく消え、ソフトの強化に軸足を置こう、という基調になっています。

津賀社長インタビューの中に「機能が優れ装備がリッチであればいいという高級・高機能を追求する『アップグレード型』はもうやめる。暮らしの中で顧客がこうあってほしいと望むことを、製品に組み込んだソフトの更新で順番にかなえるような『アップデート型』に変えていく」とあります。これは私が2月5日の当ブログ「改善と改革」で申し上げたようにカイゼン型(アップグレード型とほぼ同義)ではなく、市場が何を求めているのかベースそのものを変えていくという発想とほぼ同じ主張です。

もう一点、「今のイノベーションはほとんどソフトウエアで起きている。ハードウエアの進化が一定段階になると、ハードを動かすソフトがイノベーションを起こす構図だ。ハードは単にソフトのイネイブラー(目的を可能にするもの)になる」とありますが、これはハードは踏み台、それをもとにソフトがより良いものを生み出せる、と言っているように聞こえます。

私が冒頭、「パナさん、ようやく気が付いたのか」の申し上げたのは工場を持たないスタイル、ファブレスは今後、更に進化していくとみているからです。ファブレスの横綱といえばアップルで、彼らは自社工場を持たず、新しい技術やノウハウを取り込んだハードを協力会社に発注しています。そのメリットは売れ行きに応じて製造の増減がかなり自由に効く点でしょうか?逆に言えばアップルの場合、工場役の台湾、鴻海精密工業はその増減で製造量を振り回されますが、他の請負もあり、平準化しやすくなっています。

今までの製造業は大なり小なり、どこでも工場を持ち、それを販売するという垂直型でしたが今後は売る会社(セールス)、アイディアやマーケティングをする会社、製品のコンセプトや設計をする会社、実際に作る会社(工場)に分かれていくことになるでしょう。たまたま、日本の製造業が時代に乗り遅れていただけです。

一例をあげましょう。日本を含む不動産開発業者の流れはファブレスのコンセプトを持っています。上記の例でいえばデベロッパーはマーケティングが主体です。それを建築設計会社にデザインさせ、建築会社に工事をさせます。販売は自社でやることもありますが、私がカナダでやったのは販売会社に発注するという仕組みです。そうなるとデベロッパーはほとんど人がいらない頭脳集団であり、役割を外注し、監理するだけの仕組みであります。だから私は8棟、600戸以上の住宅開発を3人でやることができたのです。

もちろん、ある程度の工場を持つことは必要だと思います。しかし、日本型の上から下まで全部親会社が面倒を見る護送船団方式はもはや成り立たないと考えています。例えば自動車会社がなぜ工場を持たねばならないのか、といえば大炎上するかもしれません。しかし、トヨタにしろホンダにしろ、もっと車そのものの進化にフォーカスし、作る方は別会社にしてしまった方がより理にかなっているのではないでしょうか?

日本は少子化もありますので知識集約型でアイディアをどんどん生み出し、それがお金になるようなビジネス体系に変えていくべきかと思います。上述の津賀社長のインタビューの中にいみじくもダイソンとアイリスオーヤマの名前が出てきます。ダイソンはともかく、津賀社長がアイリスオーヤマを意識したというのは実に面白く、あのアイディアマン、大山健太郎氏がやる自由闊達なあの会社をうらやましく思っているようになりません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月11日の記事より転載させていただきました。