若い経営者と話をするとイケイケどんどん型の方が多いようです。新しいアイディアに飛びつき、俺だって、私だって、とチャレンジするのですがあらかた8割が途中挫折します。起業がうまくいかないと言われるその理由は攻める経営と守る経営のバランスが悪いからではないでしょうか?
なぜ、とん挫するのでしょうか?順調な時は飛ぶ鳥を落とす勢いですが、何か、クレームやしくじり、ライバル出現など障害が発生するケース、あるいは事業計画そのものが甘く、資金的に詰まること、その上、海外では契約書のたった一行の文言がビジネスを破綻に追い込むケースすらあります。
ある若い日本人経営者が私のところに「店舗の改築をしていて建築会社からとんでもない追加料金を要求されたのだがどうしたらよいか?」と相談されたケースがあります。この経営者は英語がほぼできず、業者の言いなりながらも「どうにかなる」と思っていたようです。契約済みで作業も済んでいるその工事に今更相談されてもどうにもなりません。
保守的経営、つまり、攻めると守るをうまく使い分けながら自陣をしっかり防御し、新規事業に攻め入るという経営手法は有効です。私が機会あるごとに言っているのは「まずはコアビジネスを絶対不動なものにする」そして「新規ビジネスは失敗して全損しても会社の屋台骨が揺るがない体制にすべき」と申し上げております。
それの典型が孫正義型ビジネスです。彼の場合は投資型ビジネスと揶揄されますが、もともとは自動翻訳機事業、そこから携帯電話を通じて現在に至っています。彼の履歴を見ると必ず、ベースを踏み台(最初は自動翻訳機の1億円が元手)にしてステップアップしているのです。近年では携帯電話事業がその踏み台で10兆円ファンドを作り、さらに携帯事業を分離上場させ、新たな踏み台の立ち位置をファンドの方に移行しつつあります。つまり、踏み台がどんどん高い位置に上がっていくのです。
孫正義氏が好きか嫌いかは別にして彼のビジネスモデルは踏み台が上がっても土台のベースがより頑強になっていることでぐらつかない強みがあります。地球儀ベースで世界に名だたる経営者として日本から上がってくるのは残念ながら孫正義氏ぐらいしかいないのです。
もう一人の例は柳井正氏でしょう。彼の場合は踏み台が上がっていかないのですが、土台がどんどん広がっていきます。柳井氏も若い時は孫氏と同じように踏み台を上がろうとしたのですが、孫氏ほど器用ではなく、ほとんど全部失敗しています。それでも本業を大事に育てているため、企業基盤は盤石です。
小規模事業で必要な守りの経営とは実務者の正副制度です。誰か一人だけに頼るビジネスほど怖いものはありません。先日、日本のテレビでチェーン系の某中華料理店がすごい、という番組をやっていたのですが、そのチェーンレストランのすべてのメニューはたった一人が作り出しているというのです。正直、この料理長はこのチェーン店の天皇であります。これは恐ろしいことでこの人が「俺、辞める」といった瞬間、この有名なチェーンレストランはとん挫するのです。
小規模事業の場合、経理は誰、営業は誰、店は誰に任せる、といった形になっていると思います。しかし、これではベクトルがバラバラになる可能性があり、思い切った指導もできません。そのため、遠慮ない経営をするためにも必ず「副」をつけ、いざという時に備えるのが「経営の保守本流」であります。
「保守」を辞書で引くと二つの意味があります。一つは今までの状態・考え方・習慣などを根本から変えようとはしない態度、もう一つが正常の状態を保ち、それが損じないようにすることであります。後者は英語でいうメンテナンスで私が今日、主張していることです。
会社の中身を知るとハッと驚くことは多いものです。先日、ドラマ「沈まぬ太陽」、20話もあり長かったのですが全部見ました。それだけJALの体質にはハッと驚かされるストーリーがあったということです。そのうち、誰かが日産の長編小説を書くでしょう。あの会社をドラマにすると40回ぐらいの超長編になりそうですが、それぐらい会社の経営は見た目と中身はずいぶん違うということであります。
絶対不滅、不動のビジネスモデルを作りたいものです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年2月12日の記事より転載させていただきました。