「文在寅政権」は「韓国」そのものだ!

八幡 和郎

「文在寅政権」と「韓国」は別だ!』という投稿を見て、韓国の歴史について『捏造だらけの韓国史 – レーダー照射、徴用工判決、慰安婦問題だけじゃない』(ワニブックス)など何冊かの本を書いている者として、そういう見方をする人がおられることに驚いた。それが、ヨーロッパ問題については、なかなか正鵠を得た鋭い分析をされている長谷川良さんだけに、どうしてまたと思う。

というのは、文在寅政権の迷走は、突然に出てきたものでも何でもないからだ。新羅以来の韓国の歴史、とくに、戦後の大韓民国が反日を国是にして成立し、潜在的に北朝鮮に対するシンパシーを国民全体がもっているのはどの政権のときでもそうであって、文在寅はそれをたまたま生々しく示しているだけだからだ。

旧東独軍の衛兵交代式(1989年、東ベルリンで:Wikipediaより:編集部)

それでは、なぜ、長谷川氏が誤った見方をしているかといえば、氏は東西ドイツと南北朝鮮の関係をよく似たものだと思われているのではないか。

東ドイツは西ドイツに比べて良いことなど何もなかった。せいぜい、軍隊の規律がプロイセンの伝統を引き継いでしっかりしているとか、インターナショナルになった西ドイツのオーケストラに比べて東ドイツの方が伝統がよく守られているとかいう程度のことだった。カラヤン=ベルリン・フィルの垢抜けた音に対してコンビチュニー指揮のライプツィッヒ・ゲバントハウスとかベルリン国立歌劇場の古色蒼然たる演奏はそれはそれで魅力的だった。

しかし、東ドイツの方が良いという人はほとんどいなかった。

それに対して、北朝鮮はそうも割り切れないのである。まず、1970年代までは経済的にも北の方が豊かだった。政治的には、西ドイツは米軍など、東ドイツはソ連軍がいたが、韓国は米軍のもとで半独立国みたいなものだったのに対して、北朝鮮は自主独立だった。自由ということについても、北も酷いものだが、南の人権状況も誉めたものでなかった。

そして、非同盟諸国の雄として世界外交の舞台でも相当の力があったし、朝鮮戦争でアメリカ帝国主義と正々堂々、互角に戦った栄誉に輝いていた。

2017年4月の北朝鮮建国70周年パレード(北朝鮮政府公式サイトより:編集部)

なにしろ、コリアン民族は歴史において栄光とは無縁の隠者の国である。新羅のときからずるく立ち回って上前を上手にはねることはときどきあったが、その程度である。高句麗とか渤海はそこそこ頑張ったが、中国からはコリアンとは関係ない中国の少数民族の国といわれるし、公平にみて中国の言い分に分がある。

だから、戦後ずっと、南の人も北朝鮮の政治的栄光をうらやましく思い、場合によっては、応援してきたのである。

朴正煕(Wikipedia:編集部)

日本との関係でいえば、南の李承晩は同胞の帰国を拒否し、朴正熙は日本の「植民地支配」の責任をあいまいにしたまま国交を結び、それで経済建設に成功したが、日本のお陰で発展したなど口惜しくて恥ずかしかったのである。

一方、北朝鮮は在日同胞を南朝鮮出身者を含めて喜んで迎え入れる帰還事業を実行したし、朝鮮学校を経営して民族教育もしっかりした。こういう状況だから、たとえ、1980年代になって南の方が豊かになったとしても、貧しくとも誇り高い北に頭が上がらなかったのである。

日本では拉致問題が発覚してから北の評判が悪くなったが、コリアン同士については、南北朝鮮両方が拉致し放題だったから、そのことで北は悪者だということにはならない。

捏造だらけの韓国史』では歴代大統領の政治姿勢を検証し、また、北朝鮮の意外な手強さにそれぞれ一章をさいているが、李承晩から朴正熙、全斗煥、盧泰愚までの大統領の時代は、朝鮮戦争を戦った当事者だから北を敵視することは、国家体制としては無条件の正義だったから疑問をはさめなかったし、北と軍事的に対峙する現実があった。また、朴正熙から盧泰愚までは日韓経済協力での経済協力なくして経済がもたなかった。

金泳三(Wikipedia:編集部)

ところが、金泳三が大統領になると反日が政治的に便利な看板になった。そして金大中になると北との関係構築が政治的な目標になった。ただし、金大中はその経歴から日本やアメリカには恩義があったし、政治的な基盤の強さがゆえに反日をいう必要がなかった。

そして、盧武鉉になると日本の野党にも影響されたところが大きいと思うが、本気で反日むき出しになり、反日でアメリカ、中国、北朝鮮、ロシアを束ねられるような幻想に酔うようになった。

大阪生まれの李明博は北との対決姿勢は見せたが、最初こそ、日本と現実的な関係を結ぼうとしたし、悪気はなかったと思うが、民主党政権の時期に重なった不運もあって、慰安婦だ天皇訪韓だとかで妙な期待をもったものの成果が上がらず、野田佳彦の稚拙な外交もあって竹島上陸という禁断の実を食べた。

朴槿恵は父親が親日派だとみられる十字架を背負っていたこともあるし、李明博との違いを対北融和に見出そうとした。

韓国大統領府FBより:編集部

そして、文在寅となると、本気で北朝鮮は悪くないと思っている。長谷川氏は

北は独裁国家だ。「言論の自由」、「宗教の自由」は完全に抹殺され、反対する者は容赦なく粛清される国家だ。その国家の意向に最大の関心と配慮を払う文在寅政権は…

と仰るが、それに対して、甘いのは日本のいわゆるリベラル勢力だってみなそうではないか。

文部科学省の事務次官をつとめていた前川喜平とかいう男が、その在任中を通じて、政府の方針に面従腹背しながら北朝鮮系の人々の利益を図ることを厭わなかったくらいなのである。

そうみてくれば、なにも文在寅は突然変異などではないし、文在寅がいなくなったところで好都合な政権など出てくるはずがない。そういうなかでは、北の人権状況がどうのこうのとかいうのは、アメリカやヨーロッパの国から厳しいお灸を据えられない限り、日本がなにいっても理解するはずがない。

そんな無駄な努力をはらうくらいなら、国内の偽リベラル退治をして、韓国内への親北勢力への支援を辞めさせる努力をしたほうがよほど能率が良いと思う。

【追記】渡瀬裕哉さんが「八幡和郎さんへの丁寧な回答」とかいう記事を出しているが、「丁寧」でも「回答」でもない。別に議論をするつもりはないが、事実関係の誤りは正しておく必要があろう。

①「貴殿の韓国からの天皇陛下に対する侮辱を放置して良いという論には少々驚きましたが」とかあるが、それに近いことすらまったく書いてない。幻をご覧になったようだ。

②「安倍政権の方針を批判いたしましたので、特に反論を募集したわけではないのですが、高名な八幡和郎さんから直々にご指名頂きました」などといってるが、私は小野寺前防衛相に対する誹謗中傷を注意申し上げただけで安倍首相との関連では何も論じていないし、反論などした憶えもない。

③「やり取りを我々の間で打ち切らせて頂きます。本稿に対する反論はご自身の論を否定することになるのでなさらないことを推奨いたします」とかいう言辞はTwitterなどならともかく、少なくともアゴラのようなメディアで使うものではあるまい。