USMLE(米国医師国家試験)について長々と書いてきました。ところで、最初に書いた旭川医科大学でのUSMLE勉強会ですが、己の知識の無さを学生達に露呈する散々な結果に終わりました。旭川の学生達は学生時代の僕の百倍くらいちゃんとしていて、一人一人質問をしてくれたのですが、
学生:USMLEは具体的にどう勉強すればいいでしょうか?教科書などは何使いますか?
僕:えーと、分かりませんね。なんか気合いでいけば大丈夫です。
学生:米国と日本の医療の違いはありますか?
僕:うーん、難しい質問ですね。ちょっと分かりませんね。
学生:米国で研修をするために今からやっておくことがあれば教えてください。
僕:知りません。
と、最後の方は「お前はむしろ一体何だったら知っているんだ?」という不穏なムードが教室中に漂っていました。最後に「今後、この勉強会をどう継続していったらいいか」という質問に対して、「結局、問題集をひたすらやり続ける観点から言うと、一人で勉強するのが時間的には最も効率的なんじゃないかなぁ」という勉強会の根底を覆す失言が出たところで、最初で最後のUSMLE勉強会は終了しました。
USMLEを勉強する上で、どうしたらいいか、何が最も効率的か、などの質問をよく受けますが、基本的には近道はなく、みんな辛い辛いと言いながら地道に勉強を続けていくしかないのだと思います。そのため、方法論はあまり重要ではなく、最も重要なものはUSMLEを受験するモチベーションなのではないかと思います。USMLEはなんだかハードルの高いものに感じられますが、日本の国家試験もほぼ同様に難しく、たくさんの勉強時間が必要です。
それでも皆頑張って勉強するのは、医師国家試験に落ちたら後がないことを分かっていて、これが強力なモチベーションになるからなのだと思います。USMLEには残念ながらこれがありません。取らなくてもいいし、留学した方がいいのかどうかも、実際に行くまでは、あるいは行ったとしても分からないからです。無いよりあった方が選択肢も増えるし良さげだよね、というのは尤もなのですが、そのテンションで乗り切れるほど試験の壁が低くないのがつらいところです。
USMLEは米国で医師をするために必要な資格です。そのため、米国で医師をしたいというのは強いモチベーションとなります。逆にそれがないと、その受験過程はより厳しいものになるのではないかと思います。さらに言うと、勉強したことは時間と共にほぼ全て忘れていき、最終的には資格のみが残ります。
だからといって、米国留学をしない=USMLEを勉強する意味はない、とは思いません。例えば部活動も、僕は大学でアメフトをやっていましたが、もちろん将来それで飯を食っていこうなんて思っていませんし、他にやることもないし楽しいからやっていたわけで、今でもそれをやっていたことを後悔したことはありません。
USMLEの勉強も、そういった気持ちでやれるのであれば、それはそれでいいのではないかとも思うのです。僕のUSMLE受験のモチベーションは非常に不純で、それは医師として働くモチベーションにもつながります。簡単に言ってしまうとモテたいという欲求ですが、それは、理想的な医師が掲げる、一人でも多くの人の命を救いたいとか、患者の喜んだ笑顔がみたい、などのような素晴らしく崇高なモチベーションにも全く負ける気がしません。
ちなみに、留学しなくてもUSMLEの資格を持っているだけで、合コンなどで「こいつアホそうに見えるけど、実は米国の医師資格持っているんだよ」と友達に言ってもらうことでギャップモテを狙う、という利を得ることが可能です。これにはやはりUSMLEに合格している必要があります。その後、カラオケで流行りの『U.S.A』などを歌えば、女子からの人気もうなぎのぼりになるのではないかとも思うのです。いつの間にかギャップモテの話になっていました。まとめです。僕が思うUSMLE受験とは
- ひたすらネットの問題集
- お金と時間
- 勉強を続ける目的・モチベーション
みたいな感じです。
追伸
今回USMLE勉強会を行った旭川医科大学の教授にはいつも非常にお世話になっており、「今後米国留学は学生や若い医師にとって大変重要な意味を持ってくるから、頼む」という熱い言葉を受けたので謹んでお手伝いさせていただきました。ところが、どうも教授がUSMLEや米国を連呼していることに違和感を覚えていたのですが、どうやら日本で流行っていた歌『U.S.A.』がマイブームだったみたいで、それを言いたかったことがこの勉強会を開いた一番の動機のようでした。
もちろん、それだけではないと思いますが、不純な動機というのはうっすらと混じっているくらいが人生を豊かにするスパイスになるのかな、と思いました。
編集部より:この記事は、シカゴ大学心臓胸部外科医・北原大翔氏の医療情報サイト『m3.com』での連載コラム 2019年1月14日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた北原氏、m3.com編集部に感謝いたします。