何事にも全てが悪いとか、良いとかということはなく、いい面と悪い面があるものだ。トランプ米大統領が政治の世界に登場して以来、やはり同じことが言えるのではないか。“ツイッター政治”が半ば公認されたこともあって、世界の情勢は明日も分からないほど流動的となった反面、米大統領の本音が以前より理解できるようになった面もある。
ポンペオ米国務長官は11日、ハンガリーを歴訪したが、その欧州歴訪の目的の一つは、中国の投資やファーウェイに無警戒の東欧諸国に警告を発することだった。具体的には、中国の習近平国家主席が推進する新たなシルクロード構想「一帯一路」に傾斜するハンガリーの右派オルバン政権に対し、債務が山積し、国民経済が厳しくなると警告。
それだけではない。中国共産党政権の情報工作に関与している疑いがある中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)を政府調達から排除する動きが欧米諸国で急速に加速してきたが、その流れに反し、ハンガリーがファーウェイの欧州向け物流拠点となっていることに対し警告を発する狙いがあった。そのポンペオ国務長官のミッションが成功したか否かは今後のハンガリー政府の動きを注視する必要があるだろう。
米国からお灸をすえられたハンガリーと好対照をなすのはポーランドだ。ワルシャワを訪問したペンス米副大統領は13日、「ポーランドは模範的な国だ」と称賛している。ワルシャワで13日から2日間開催された米国主導の中東安定化のための国際会議会のホスト国へのねぎらいという意味もあるが、ポーランド政府の北大西洋条約機構(NATO)での役割や対ファーウェイ対策へのトランプ政権の評価があるからだ。
ポーランドで1月8日、ワルシャワのファーウェイ社事務所の中国人職員がスパイ容疑で逮捕された。同職員はポーランド担当営業マネージャーだ。同時に、ポーランド国内安全保障局(ABW)に勤務していた元職員(サイバー対策専門家)も逮捕されたばかりだ。
ポーランドとハンガリー両国はNATO加盟国であり、同時に右派政権が政権を握っているが、米国の評価では真っ二つに分かれているわけだ。
ところで、トランプ政権から厳しい叱咤を受けたのはハンガリーのオルバン首相だけではない。朝鮮半島の韓国の文在寅政権も米国から厳しいお灸をすえられている。
韓国の最大手日刊紙・朝鮮日報(日本語版)は16日付の社説「米議会から名指しで批判された文大統領・康外相、これ以上警告を聞き流すな」という記事で、「米議会上院のテッド・クルーズ議員(共和党)とメネンデス議員(民主党)が今月11日『韓国政府が北朝鮮制裁の緩和に乗り出せば、韓国の銀行や企業が制裁対象になるかも知れない』という警告の書簡をポンペオ国務長官に送っていた」と指摘し、「南北間と米朝間の外交は互いに進展の度合いが異なっているため、韓国の銀行や企業が米国の制裁に直面する潜在的リスクがある」と報じた。
要するに、「北朝鮮の非核化が具体的に何も進展していない時に、韓国政府が一方的に制裁解除するな」というトランプ政権の警告だ。
トランプ大統領が就任する前の米国を思い出してほしい。オバマ前政権はツイッターを政策発表のツールに利用しなかった一方、外国に対しては直接、叱咤したり称賛する発言をできるだけ避けてきた。それが変わった。トランプ政権は大統領の性格もあって発言内容ははっきりしている。同時に、発言が一日で激変する危険性は排除できない。ハンガリーが翌日から褒められ、ポーランドが叱られることだって十分考えられる。
ジャーナリストにとって、はっきりと意思表示をする米大統領の登場は歓迎すべきだろう。その政策や言動は流動的とならざるを得ないが、話題提供という観点から見ればこれまた歓迎すべきだ。
ちなみに、トランプ大統領が登場して以来、一貫して高い評価を享受してきた政治家は日本の安倍晋三首相だ。安倍首相は、アメリカのリベラルなメディアから大統領就任直後から叩かれ続け、欧州の同盟国からも厳しい目で見られてきたトランプ大統領を最初に訪問し、米大統領として認知した政治家だ。
15日発のワシントン外電によると、安倍首相はトランプ大統領を「朝鮮半島の安定化に貢献した」という理由でノーベル平和賞の候補に推薦したという。その推薦状を手にカメラに向かうトランプ大統領の嬉しそうな顔をみてほしい。安倍首相はトランプ氏の心を完全に掴んだわけだ。日米関係でそこまで親交を深めた日本の首相はいないだろう。
いずれにしても、同盟国とはいえ個性の強いトランプ大統領から叱られる国が出てくる一方、褒められる国が出てくるが、最終的評価はトランプ政権が幕を閉じた時に下されるだろう。トランプ氏と親交を誰よりも早く構築した安倍首相は先見の明があったアジア指導者として歴史にその名を残すか、歴代最悪の米大統領にすり寄った哀れな日本首相として冷笑されるかは歴史が決めることだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。