【19日17:00 最後に追記あり】
文化庁は海賊版対策として、ダウンロード(以下、“DL”)を全面的に違法化する方針を決定。現在、音楽・映像のみとされている違法DLの範囲を拡大し、静止画を含むあらゆるコンテンツのDLを違法化する。メモがわりにスマホの画面を撮影するスクリーンショットも、侵害コンテンツが写っていれば違法になるなど、国民生活に多大な影響を及ぼす著作権法改正には以下の問題がある。
異例のスピード審議
DL全面違法化は、2月13日に開催された文化審議会著作権分科会(以下、「分科会」で了承された報告書に盛り込まれた。報告書は著作権分科会法制基本問題小委員会(以下、「小委員会」)がとりまとめたものだが、小委員会は昨年10月末から5回にわたる会合でわずか3ヶ月の間にまとめた。
海賊版対策としては、内閣府がブロッキング(接続遮断)を提案、昨年4月から半年にわたって議論したが、対立する意見の溝は埋まらず、報告書すらまとまらなかった。そのお鉢が文化庁に回ってきたわけだが、国民の日常のネット利用に刑事罰が及ぶおそれがあるDL全面違法化には、パブリッシングコメントでも多くの反対意見が出された。
参照:(文化庁サイト)パブリックコメントで提出された個別事例を受けた事務局としての考え方
1月25日の小委員会でも5人の委員から意見書が出された。
意見書を出した委員の中には少なくとも、もう1回の審議を提案する委員も複数いたが、今通常国会に法案を提出したい文化庁は、意見は報告書に反映するので、主査(茶園成樹大阪大学大学院教授)に一任してほしいと押し切った(議事録)。
修正を反映した報告書も2月13日の分科会で議論を呼んだ。小委員会で反対の意見書を提出した5人も含め、著作権法学者はほとんど反対したようだが(審議模様はまだ公開されていない)、多数決で了承された。
今回、海賊版対策として同時に著作権法改正案に盛り込まれるリーチサイトに対する規制ついては、2016年から3年かけて検討を重ねてきた。このため、特に反対意見は出なかったことからも、わずか3カ月で結論を急いだDL全面違法化検討の拙速観は否めない。
海賊版の被害者でもあるマンガ家たちも反対
とりまとめを急いだ結果、検討不十分の内容になっているのも問題である。政府が海賊版対策を検討するきっかけになったのが、海賊版サイト「漫画村」問題だったことに象徴されるように漫画業界は海賊版の最大の被害者である。にもかかわらず、漫画家たちが反対しているところにも今回の改正案の問題点が浮き彫りになる。
人気漫画家、二ノ宮知子さんの2月13日のツイート「誰が頼んだよ、こんなの…。」は3491回もリツイートされている(17日現在)。
誰が頼んだよ、こんなの…。
著作権侵害、スクショもNG 「全面的に違法」方針決定:朝日新聞デジタル https://t.co/BflncDsb6F— 二ノ宮知子 (@nino0120444) 2019年2月13日
日本マンガ学会も1月23日、「DL違法化の対象範囲拡大に対する反対声明」を発表、2月8日には国会内で集会を開催した。
反対声明は小委員会の中間まとめ(当時「案」)に対して、2012年の「動画や音楽のDL違法化・刑事罰化のあと、逮捕者は出ておらず、もっぱら法律による「抑止力」のみが期待されている状態にある」中、「静止画等のDLを違法化することは、悪意ある侵犯者に対してはまったく効果がなく、逆に一般ユーザーの萎縮を招き、研究・創作を著しく阻害する最悪の結果となることが予想される」などの問題点を指摘した上で、以下のように結んでいる。
これらの点が十分に検討されているとはいいがたいのは、中間まとめが、著作物の私的使用を一方的な便益の受容・消費活動と限定してとらえているためであり、著作物の享受や消費行為が、新たな著作物を創造する〈生産行為〉でもありうるという点が考慮されていない。
とくに日本のマンガ文化は、こうした〈生産行為〉を基礎とすることで、世界的な発展を遂げて来た。著作権の保護されるべき最終的な目的が「文化の発展」にある以上、この著作物の受容・消費過程における生産的・発展的側面が失われるようなことがあってはならない。よって、ダウンロード違法化の対象範囲の拡大それ自体に反対する。
自民党の提言にも逆行
自民党政務調査会は2017 年5月、「知財立国に向けての知的財産戦略に関する提言」を発表した。7項目の提言の最初に掲げられた「第4次産業革命・Society5.0 を見据えた知財・標準・データ戦略の一体的推進」の中で、以下の説明がある。
・著作物の利用が個々の消費者まで広がっていることに鑑み、「消費者利益への配慮」とい う視点を明確にする。
この点については1月25日の小委員会でも複数の委員が指摘した。
自民党は昨年、「柔軟な権利制限規定」などを導入した著作権法改正時にも文化庁案を問題視した。柔軟な権利制限規定は「知的財産推進計画2016」での提案を受け、文化庁で2年がかりで改正に漕ぎつけた。このため、小委員会や分科会では特に異論は出なかった。それでも昨年2月、自民党内では議論になった。赤池まさあき参議院議員はブログ「著作権法改正 技術革新のための柔軟な規定へ」で、自民党内で3回にわたった会議で激論となったと指摘している。
激論となった理由は、山本一太参議院議員がブログ「文化庁の著作権法改正案の内容に異議あり‼️〜前進どころか後退した『柔軟な権利制限』の規定(怒)」で指摘するとおり、自民党の提言をまったく反映してないため。
議論の内容については、三宅伸吾参議院議員が「三宅伸吾『国政報告⑨』2018年3月25日」で詳しく報告している。その概要は近著「音楽はどこへ消えたか? 2019改正著作権法で見えたJASRACと音楽教室問題」で紹介したので参照されたい。
文化庁案が自民党内で了承された後も、自民党知財戦略調査会コンテンツ小委員会事務局長(当時)の阿達雅志参議院議員は文化庁との折衝を続けた。詳細は同議員に来賓あいさつをお願いした、国際大学GLOCOM主催のシンポジウム「平成30年著作権法改正 ~「柔軟な権利制限規定」の意義と今後の課題~」の模様が動画配信されているので、こちらを参照されたい。
このように自民党は文化庁よりも利用者よりなので、改正案に反対のネットユーザーは国会議員に反対の意思を伝えることを提案したい。改正案を審議する自民党の文部科学部会は、2月15日の会合で改正の趣旨説明を受け、22日(金)には法案の審議を予定している。このため、選挙区の自民党議員に反対の意思を至急、伝えようという提案である。権利者団体寄りの文化庁よりは議員の方が、選挙民でもある一般ユーザーの声に耳を傾けてくれるからである。
【追記 17:00】2月19日、著作権法の権威である中山信弘 東京大学名誉教授 明治大学研究・知財戦略機構顧問らが呼びかけ人となった共同声明「ダウンロード違法化の対象範囲の見直し」に関する緊急声明」・「ダウンロード違法化の対象範囲」の具体的制度設計のあり方について が発表された。
城所 岩生 国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)客員教授。米国弁護士。
東京大学法学部卒業後、ニューヨーク大学修士号取得(経営学・法学)。NTTアメリカ上席副社長、ニューヨーク州・ワシントンDC弁護士、成蹊大学法学部教授を経て、2009年より現職。2016年までは成蹊大学法科大学院非常勤講師も務める。2015年5月~7月、サンタクララ大ロースクール客員研究員。情報通信法に精通した国際IT弁護士として活躍。最新刊に『音楽はどこへ消えたか? 2019改正著作権法で見えたJASRACと音楽教室問題』(みらいパブリッシング)