独裁はするが、独断はしない

LIMOという経済メディアに「指示待ち人間ってどんな人?指示待ち人間にならないためにはどうしたらいいの?」(18年10月5日)と題された記事がありました。本ブログでは以下、当該テーマより私が思うところを簡潔に申し上げて行きます。

例えば此の会社の此の部分の業績が悪いとした時に、自分が指示を出し「これをしろ、あれをしろ」と言うのは一つあっても良いと思います。しかし順番としては先ず、その部分を担っている人に「どうしたら業績が良くなると思うか」と意見を出させることでしょう。

私のやり方は何時も最初に、「何故この部門は業績が悪いのか」につきヘッドから末端に至るまで全員にメールで送ってくるよう指示を出します。次に夫々の意見を踏まえた上で、私が如何に処すべきかを判断します。そしてそれに関して、「今度こうしようと思うけど、あなた達はどう思う?」と今一度意見を聞いてみます。

組織の誰かが「指示待ち人間」になっているのは、上に立つ者がそうしている部分もあると言えるのではないでしょうか。上記の如く求めたら返ってくるわけですから、先ずは上に立つ者は部下に求めたら良いのです。そしてその意見につき自分の考えを定めて後また返す、ということを繰り返す中で上司も部下も御互いに考えるプロセスが出来てきます。従ってそうしたプロセスを作らないことには、何時まで経っても指示待ちになってしまうでしょう。

他方、決断のプロセスについて私は拙著『逆境を生き抜く名経営者、先哲の箴言』(朝日新聞出版)の中で取り上げた創業経営者の一人、近鉄(近畿日本鉄道)中興の祖と言われる「佐伯勇(傘下一七〇社の近鉄グループの元総帥)」で次の通り述べました。

――独裁するが独断はしない。このことは私の信条でもある。一つの決断をする際、いろいろな人に聞きまわり、あらゆる英知を集める。社内のみならず、外部の人も含め、さまざまな衆知を集める。しかし、決するときは独りで行う。最終の断を下す部分は断固として自分がやる。これができるかできないかで、経営者には大きな違いがある。(中略)独裁という言葉には政治用語で使う否定的なニュアンスがあるが、私がここで言っているのは最後の責任を誰がもつかということ。

『宋名臣言行録』に「事に臨むに三つの難きあり。能く見る、一なり。見て能く行う、二なり。当に行うべくんば必ず果決す、三なり」という言葉があります。事に臨み処置するに当たりトップは、第一に見通すことの困難、第二に見通した後にきちんと実行することの困難、第三に実行すべきを素早く決断し勇気を持って必ずやり通すことの困難、という三つの困難を克服し最終的に決着をつけて行かねばなりません。

朝から晩まで「小田原評定」とも言うべき不毛な会議を重ね「議して決せず、決して行われず」というのでなく、果断な処置をとって物事を成就させて行くのがトップの務めというものでしょう。経営者、トップとは困難の中でも英知の結集はやらねばなりません。しかし同時に、どんどん決めて行かなければなりません。だからその分トップには、見識や能力が求められるのです。

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