国際軍事見本市「IDEX」とコマツの装甲車両撤退

一昨日IDEX2019の取材より帰国しました。
とりあえず速報は東京防衛航空宇宙時評をご参照ください。

さて今回はNEC及び川崎重工が出展しておましたが、なんで君たち来ているの?レベルの出展でした。両者の株主は余程鷹揚なのでしょう。
NECは一応、湾岸諸国で売れそうなダイバー探知用のソナーなども持ってきているのに売る気がない、売れそうな顔認証システムなども売る気が見られない。

話をきいても過去多くの展示館に出展して、具体的な成果もないようです。普通の企業が見本市にするのはビジネスの拡大のためのです。出展の費用はブース料以外、設営費用やデザイン費、社員の出張費、資料作成など多額のコストがかかります。それを何年も続けて成果がでなくていいというのはきらくです。ジェトロの見本市のパビリオンですら毎回成果が問われるというのに。

やる気のない川重のブース

川重はもっと悪い。P-1、C-2の小さな模型と、バイクのビデオだけ。 バイクは世界中の軍隊に売っているわけですから今更本社がやる必要もないでしょう。ディーラーにやらせればいい。むしろ世界的に軍隊で需要が伸びているATVをやればいい。川重はATVを既に持っているし、これに手を加えればいいわけです。既に世界中にセール網ももっている。前から川重の関係者には申し上げているがやる気がまったくない。

P-1にしろ、C-2にしろ、軍用機としては筋が悪いサポート体制が不安ですから。特にP-1はエンジンまで専用ですからなおさらです。アラブの王様の気まぐれを期待するするかない代物です。

率直に申し上げて、義務で文化祭に出展している高校の文化部の展示みたいなものです。
この見本市に出て成果を上げる。すぐにセールスに結び付かなくても、徐々に道筋をつけて販売につなげるという気位が感じられません。事業会社ではなく、まるで政府機関の出展のようです。
もしかすると「官邸の最高レベル」から赫々たる輸出の実績をつくれ、といわれて仕方なく付き合っているのかもしれませんが。

ただ今回は装備庁、陸幕を主力として海幕などからも合計10名以上のデリゲーションが日本から来ていました。無論表敬訪問や退職前の卒業旅行ではなく、現場レベルの人たちが来ており熱心に視察をしておりました。
これも長年嫌われながら実名を挙げて、卒業旅行と視察の少なさを批判してきたことが多少は寄与しているかと思います。

ただ残念なのが、これが防衛省、自衛隊の自らの努力というよりも財務省のほうが危機感をもって、積極的に予算をつけてきたという事情があります。過去財務省が予算をつけても防衛省側が難色をしめして、予算をつかわず、別の予算に使いたがったということもあったようです。

後できうれば、幕僚長とまでいいませんが星の数が多い偉い人が何人か来るべきです。そうでないと我が国のプレゼンスが示せないし、トップレベルの交流もできません。こういう貴重な機会に各国の軍の首脳と意見交換をすべきです。そが将官の視野を広げて資質の向上に繋がります。

さて、読売新聞を発端に各社がコマツの装甲車両からの実質撤退を報じています。このタイミングというのはもしかするとぼくのブログの記事を読んだのか、ぼくから取材を受けたコマツの広報があれこれ書かれる前にリークしたのか、かもしれません。

コマツ、防衛事業採算優先 陸自車両の開発中止 企業乱立 再編進まず

コマツが陸上自衛隊向けに開発・生産してきた車両の一部の新規開発を中止したことが分かった。開発コストに見合った収益が期待できないのが理由だ。日本の防衛費は拡大が続くが、増加分の多くは米国製の装備品購入に充てられ、日本勢への新たな発注は限られている。自衛隊向けだけの小さな市場で多数の企業が携わる日本の防衛産業。低い採算性に投資家から批判の目も向く。使命感で防衛事業を継続してきた日本勢だが、コマツのように採算を優先する動きは広がるだろうか。

コマツは自衛隊車両の大手。

細かいこと言えば自衛隊車両じゃなくて、装甲車両ね。其の程度も知らないからこの程度の記事になるわけですが。

防衛装備品は自衛隊向けの限られた需要しかなく、原価が高い。特殊な技術で開発にも時間や人手がかかる。メーカーの負担を軽減するため、政府の調達価格は原価に一定の利益を上乗せする「原価計算方式」を取るのが基本だが、上乗せする利益の比率は5%程度と、民間企業の利益率としては高いとは言えない。F2戦闘機を製造する三菱重工業、P1哨戒機を手がける川崎重工業など他メーカーも同じ悩みを抱えている。

これもメーカーの主張鵜呑みです。
第一に、売残乗りがまったくないからリスクが存在しない。
利益が低いといったらトヨタの下請けなんてどうなるよ、てな話です。

5%といっても工数なんて各工程で水増ししているのは業界の常識です。
また防衛省の予算で買ったジグや工作機を転用して儲けている企業もあります。
富士通なんぞ防衛省の利益は15%だなんて社内報で載せていました。

記者クラブに安穏として日経の名刺もって企業まわって相手の喋ったことを裏を取らないとこういう記事になりますという見本みたいな記事です。

「採算性は厳しい。使命感でやっているので、完全なビジネスとしては見ていない」。防衛用航空エンジンを手がけるIHIで財務を担当する山田剛志取締役はこう話す。同社の防衛事業は売上高1000億円規模。構造改革の真っただ中にある同社でも別枠扱いだ。

こういう浪花節のインチキが1番許せんません。
だったらこの取締役は会社の利益を既存しているとして、株主から訴訟を起こされるでしょう。
民間企業が損してまで国に付き合う義理はありません。無論現場では国ためという意識があるでしょうが、俺たちは国ためのやっているだというエクスキューズを偉い人が安易に使うべきじゃありません。

だったら、P-1のエンジンだってもっと真面目に試験運転を後一桁ぐらいやったら良かったでしょう。
国防真面目に考えるならば、自社としても海外の動向を調べ、官に提案するぐらいのことをすれば良かったでしょう。

各社が防衛事業を続けてきたのは、国の防衛への使命感や景気変動に左右されない安定性という観点が大きい。IHIの山田取締役は「装備品開発を通じて技術を鍛えられるという利点もある」と強調する。

ただ、このような状況は徐々に変化しつつある。各社の事業がグローバル化し、防衛事業の利益水準も海外勢や他の事業と比較されるようになった。民間ビジネスの片手間に国内市場だけを相手とする防衛事業は「投資家に説明しづらい」(大手重工幹部)存在になってきた。営業利益率が15%に上るコマツにとっては、「お荷物」事業と見られていたとしても不思議でない。

これが本音でしょう。既にぼくが以下のように指摘しています。

コマツが防衛事業から撤退すべき5つの理由 取り組み姿勢が、キャタピラーとは対照的

建機一位のキャタピラーとコマツとでは其の防衛部門の差は歴然です。
キャタピラーは主に防衛部門ではエンジンと建機で稼いでいます。
つまり本業とのシナジー効果は極めて高い。ところがコマツの防衛部門は装甲車にしても弾薬にしても本業とのシナジー効果が極めて低い。しかも防衛部門の売上は低い。

コマツが製造する96式装甲車(陸自第6師団サイトより:編集部)

これはマネジメントの無能によるところです。
例えば、弾薬部門を他社と統合するなりして効率化を図り、装甲車両も工兵車輌を中心にして、通常装輪装甲車は三菱重工と事業統合をするとか手は会ったはずです。

装甲車両にして輸出もできないわけではありません。民間用の現金輸送車や防弾車などの市場もあります。
その気になればいくらでも防衛部門が生き残れる道があったはずです。

ところがコマツの名経営者と謳われた坂根前会長も含めて、真面目に防衛部門の生き残りを考えてこなかった。
輸出なんぞしようものならば「死の商人」の後ろ指を刺されることを恐れたんでしょう。
あるいは主要市場の中国からの反発を恐れていたのか。
だから、自社のウェブサイトにも防衛部門もその製品も載せていない。そして積極的な改革をしてこなかった。

結果性能の劣り、値段は何倍も高い装甲車を平然と売りつけていただけです。
これは国民と株主に対する背信であるとすらいってもいいでしょう。

新聞は書いていませんが、軽装甲機動車にしてもそれまで3~3.5千万円(他国の約3倍)のものを排ガス規制にそってエンジン改良するだけで5千万に値上げです。これを了承した陸幕や装備庁も大概ですが、財務省が許すわけないでしょう。ですから予算が束なった。つまりは常識がなったということです。

常識がない人たちがビジネスやってもうまくいく道理がありません。

■本日の市ヶ谷の噂■
川崎重工は防衛予算で装備生産のために全額税金で購入した工作機械を民選品製造にも転用して利益を上げているとの噂。


編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2019年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。