沖縄県民投票に認められるマスメディアの県民支配

藤原 かずえ

辺野古埋め立てを問う沖縄県民投票においては、有権者の37.65%が埋め立て反対の意見を示しました。この結果に対し、安倍首相は「結果を真摯に受け止め、これからも基地負担軽減に向けて全力で取り組む」という見解を示しました。これは、国家のセキュリティに責任を持つ首相が、法的拘束力のない意見表明に対して、対応可能な範囲で最大限尊重する決意を示したものと考えます。

辺野古基地予定地(編集部撮影)

今回の県民投票をとりまく議論においては、民主主義を破壊しかねないいくつかの重大な問題点が存在し、辺野古埋め立て反対の論調を持つ偏向マスメディアがそのキープレイヤーとなっています。明らかに偏向マスメディアは、投票前においては情報操作で沖縄県の有権者をミスリードし、投票後においては印象操作で国民全体をミスリードしています。本記事では、これらの問題点についてそれぞれ「直接民主制」「民意」というキーワードを使って分析してみたいと思います。

情報操作下における「直接民主制」

2019年2月23日、TBSテレビ『報道特集』では翌日に行われる沖縄県民投票に関連した特集報道を放映しました。

金平茂紀氏「普天間基地の移設先として政府が埋め立て工事を強行している名護市辺野古の海兵隊基地。沖縄県民が何度も示し続けてきた民意がこれほど無視され続けた例は戦後の歴史に他にあるでしょうか。県民投票という行動を思い立った一人の青年の思いを追いながら問われているものの重みを考えたいと思います」

民主主義の手続きに従って埋め立て工事を進める政府を【悪魔化】する一方で工事に反対する青年を【偶像化】する金平氏の恣意的なイントロダクションからもわかるように、この番組は、住民投票を行う有権者の【ルサンチマン】[記事]を一方的に刺激して「反対」の投票行動を【内発的動機付け】する内容になっていたと言えます。一方で番組は、沖縄基地が必要となる直接原因である覇権国家中国の日本に対する敵対行動の実際については一切報じることがありませんでした。

そんな中で興味深かったのは基地移転の当事者の次のような発言です。

辺野古商工会理事「県民投票はやらない方がいいというのが本音ですね。おそらく大差で反対意見は出ると思います。無意識の意識というか、賛成すると、県民は後ろ指を指されるような思いになる感情を持っているかもしれません」

辺野古基地の受入れを容認している「直接の当事者」である辺野古商工会理事が「後ろ指を指される思いがあるのでは」と「直接の当事者」ではない県民の気持ちを善意で思いやっている状況は極めて異常であると言えます。そこには、本来の当事者の意見など介在する余地のない極めて身勝手な反対運動と賛成者を黙らせる【沈黙の螺旋】[記事]が存在していることがわかります。

普天間飛行場付近の住民「自分の家の側にあるのがダメなら他所のところに行くのも向こうに住む人は嫌だろう」

これも「直接の当事者」である普天間飛行場周辺住民が、「直接の当事者」となる辺野古区住民を善意で思いやっている発言です。辺野古基地においては、実際には飛行機の進入経路が海上となるため、危険性という観点においては辺野古区住民の安全性にほとんど影響を与えることはありません。このような誤解もメディアが辺野古の状況を適正に報じないことに起因するものです。

以上のように「直接の当事者」である辺野古区住民ならびに普天間飛行場周辺住民の意見が不在のままに、「直接の当事者」ではない沖縄県民が、偏向マスメディアにルサンチマンを刺激されて操られたということが今回の住民投票の結果の背景にあるのは自明です。ちなみに大票田の那覇市から辺野古基地までは直線距離で約50kmもあります。多くの那覇市民は「我々は政府にバカにされている」と辺野古基地の存在を反対していますが、これは首都圏で言えば、横田基地にの存在について、浦安市や横須賀市や春日部市の住民が「我々は政府にバカにされている」と憤慨し反対しているようなものなのです。

そのような実状も十分に承知しているはずの金平氏の偏向リポートが続きます。

金平氏「ここに建設反対派のノボリが立っていますけども、建設賛成派のノボリなんていうのはまったく見当たらないです」

金平氏はついつい本心が出てしまうようで、反対派のノボリは「ノボリ」、賛成派のノボリは「ノボリなんていうの」と表現しています(笑)。そして待ってましたかのようにVTRの最後には、玉城デニー県知事が登場し、その政治的主張をしっかりと宣伝しました。

玉城デニー沖縄県知事「”民主主義の根幹””尊厳”が問われている県民投票だと私は思っています。どのような結果であれ、この沖縄県民が県民投票にかける思い、願い、その重みというものは、国際社会はしっかりと見ていると思う。もう国がやると決めたことは、もう地方自治では反論することはできないのか、そこに生きる国民は何も言うことができないのかということに”一つの形”を示そうとしている。日本国民、どこにお住まいであっても、この沖縄の状況をしっかり受け止めていただきたい。

確かに、今回の沖縄県民投票では「民主主義の根幹」「尊厳」が問われていました。ただし、それは、マスメディアが主張するような「虐げられた沖縄県民が自由に意思表明できるか」ではなく、「マスメディアが一方的な偏向報道を行う環境下で直接民主制が機能するか」ということです。

現在の世界の民主国の政治形態のメインストリームは、政治のプロフェッショナルである政治家に政策の決定を委ねる【間接民主制】です。それに対して今回の住民投票のような【直接民主制】は有権者が直接政策決定を行うものです。ここで、直接民主制にとって重要なことは、政策決定者である有権者が、自分が真に望む政策決定を判断できるだけの正しい情報を事前に得ていることです。ところが沖縄の場合、これが極めて難しいのです。

沖縄で新聞のシェアをほぼ独占する沖縄タイムスと琉球新報は、いずれもかなり偏向した論調を持つ新聞社であり、その論調に合致する情報のみを伝えて合致しない情報を葬り去るというあからさまな【チェリー・ピッキング】を行っています。例えば沖縄タイムスは、1日に複数回にわたり辺野古の活動家の情報を美談仕立てで報じる一方で、尖閣諸島周辺海域における中国船の侵入については1カ月に1回事務的に報じるのがいいところです。また、基地反対活動家の極めて悪質な挑発行為・暴力行為・違法行為については、あからさまに見て見ぬふりをします。実際、記者による「見て見ぬふりの行動」は、動画投稿サイトにアップロードされたいくつかの動画によって検証されています。

このような異常な偏向マスメディアの情報操作を受けた一部の沖縄県民が盲目的に反対側に賛同することは自然です。前出の辺野古住民の言葉から明らかなように、一部の沖縄県民は、自覚しないままに偏向マスメディアに思想を支配され、その思想に反する行動を自由に行えない状態にまで陥っています。辺野古埋め立て反対の37.65%の数字の中には、このような有権者が多数含まれていることは自明です。

偏向マスメディアが情報を支配する沖縄県において、政治の専門家ではない有権者が適正な情報を得ないままに直接民主制である住民投票が今回行われたということは、民主主義の危機に他なりません。まさにマスメディアが有権者から主権を奪っているのです。

「民意」の数字の独り歩き

特集のVTRが終わると、金平氏が地元のRBC琉球放送の記者にインタヴューしました。

金平氏「県民投票の意義、何が問われていると思いますか」

RBC記者「今回は投票率だったり、どちらの選択肢が多数を占めるかが、県民の選択として注目されています。しかし沖縄はこれまでにも国政選挙や県知事選挙で辺野古の賛否という民意は示してきているのですが、政府による工事は進められています。日本の安全保障という本来であれば全国で議論されるべき問題がなぜ沖縄で今、住民投票という形で問われなければならないのか。国民一人一人が問われているのではないでしょうか。」

地方自治法に定められているように、地方公共団体は「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担う」ものであり、「国際社会における国家としての存立にかかわる事務」である安全保障は国の専管事項です。実際、国民は生存のために安全保障行政を国に委ねていて、多くの国民は安全保障行政を委ねるのに最も相応しい政府を選挙で選択します。

普天間飛行場の辺野古移転は長年にわたる民主主義の手続きによって決定された事項であり、これを住民投票の結果を根拠にして停止させたとしたら、それこそ民主主義の破壊に他なりません。なお、辺野古の飛行場はキャンプシュワブ内につくる施設であり、けっして新基地ではありません。飛行機の進入路が海上にあるため、普天間飛行場のように危険ではなく、完成すれば普天間飛行場が返還されます。辺野古移転は政府による沖縄の基地負担軽減政策に他なりません。さらに国は、沖縄県に対して通常の2倍規模の多額の国庫支出金を計上して可能な範囲で最大限寄り添っています。

このような背景の中で、マスメディアは政府を一方的に悪魔化し、問題の本質を歪めているのです。金平氏は最後に感想を述べます。

金平氏「VTRに出てきた元山仁士郎さん達若者世代が必死に動いて県民投票をとにかく実現させたということが大きいと思います。日本の他の都道府県でこんなエネルギーがある所はないと思いますね。元山さんの言葉を借りますと、どのような結果が出ようが県民の意思を示すこと自体が大事なんだと。ここまで県民投票に至る過程で実はいくつもの問題点が出てきました。マヨネーズ状と言われる軟弱地盤が工事海域にあることがわかって、工事計画全体のそもそものコンセプトを変えかねないという非常に重大なことです。もう一つは海中に投入された土砂の成分が勝手に変更されていて赤土が混入しているのではないかと県が懸念を表明していることです。これらの事柄は国・政府が県民に対してきちんと説明しているとは思えません。政府がお決まりのように口にしている県民に寄り添うというのは一体どういうことなのでしょうか。投票率も気にかかるところですけれども、それがどうであれ、示された民意を真摯に受け止めることが必要だと思います。」

今回一人の青年を偶像化した金平氏ですが、金平氏は2015年の安保法案の時にも、SEALDsの青年を偶像化する【戦略型フレーム報道】を展開し、扇動を盛り上げた成功体験があります。一方で悪評の流布も忘れてはいません。軟弱地盤と赤土に関連して不確定な見通しをあたかも事実であるかのように報じています。そして金平氏の発言の最大の問題点は「投票率がどうであれ、示された民意を真摯に受け止めることが必要だ」という箇所です。

反対者の反対者による反対者のための投票で反対者が多数を取ることは、事前に予想され、事実そうなりましたが、金平氏はそれを見越して、投票率はどうであれ結果に従うよう主張したものと考えられます。住民の意思を表明する目的の住民投票において、投票者に占める反対の割合(71.74%)に大きな意味はなく、有権者に占める反対の割合(37.65%)に意味があります。これは一般の国政選挙とは異なり、投票自体に反対の有権者や、反対を示さないことをもって反対ではないことを示していると考える有権者が大量に存在すると考えられるためです。

ところが、投票日翌日のマスメディアはこの71.74%をあたかも沖縄県民の71.74%が反対であるかのように大合唱しているのです。これは、極めて不当な数字の独り歩きに他なりません。

毎日新聞は社説で次のように書いています。

毎日新聞社説(2019/02/25)
「辺野古」反対が多数 もはや埋め立てはやめよ
辺野古埋め立てへの反対票が多数を占めた。政府はただちに埋め立てをやめ、沖縄県と真摯に解決策を話し合うべきだ。

毎日新聞は「反対票が多数あった」ことを「反対票が多数を占めた」とミスリードし、「埋め立てはやめよ」と乱暴に主張しています。法的拘束力のない住民投票の結果に対して「盲目に従う」のではなく「慎重に向き合う」のが真の民主主義です。「7割の反対」を事実認定しようとする一部マスメディアの暴走は民主主義への明確な挑戦でありけっして容認することはできません。

マスメディアの沖縄県民支配

マスメディアの情報操作下における直接民主制の主権は、沖縄県民にはなくマスメディアにあります。マスメディアは、この歪めた直接民主制で得た民意の数字をさらに独り歩きさせようと【プロパガンダ】を必死に展開しています。新聞の発行部数が減少し、テレビの視聴率が低下する中、特殊なメディア環境下にある沖縄は、既存マスメディアによる偏向報道の最後の砦となる可能性があります。

朝日新聞のプロパガンダは現在も続行中です。

朝日新聞社説(2019/02/26)
政権と沖縄 これが民主主義の国か
この事態を招いたのは、沖縄の人びとの過重な基地負担の軽減に取り組むという原点を忘れ、「普天間か辺野古か」という二者択一を迫る政権のかたくなな姿勢にある。

この事態を招いたのは、普天間から辺野古が基地負担の軽減になるという原点を忘れ、「辺野古中止」という一者択一を迫る偏向メディアと活動家のかたくなな姿勢にあります。

この偏向マスメディアの一連の無意味な戦略型フレーム報道の被害を受けているのは沖縄県民に他なりません。マスメディアによって扇動された一部の沖縄県民は、「政府と本土は沖縄をバカにしている」「沖縄に新基地はいらない」という事実誤認の理解不能な根拠によって、普天間飛行場の危険性を早期に排除して基地面積の縮小を実現することができる辺野古への移転を反対しています。このプロパガンダには、いつかはバレる明らかな論理不全があります。後世において、普天間飛行場の辺野古移転反対は、国際線の成田移管反対や築地市場の豊洲移転反対とともに「理解不能の反対」の典型事例として語り継がれていくことになると考えます。

なお、これらの事例の共通点として、「特定の政治的イデオロギーを持つ反対活動家の存在」と「偏向マスメディアの強力な支援」が挙げられます。この組み合わせが偶然なのか、偶然でないのかは、残念ながら私の知るところではありません。

藤原 かずえ
ワニブックス
2018-09-27

編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2019年2月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。