北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は推定170センチ弱、体重130キロといわれる。35歳の若い独裁者は明らかに太りすぎだ。一方、北朝鮮の国民は3食も十分とれず、慢性栄養不足の状況だ。金正恩氏の祖父・金日成主席は、「国民が白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにする」と約束したが、果たせずに終わった。金正恩氏も2014年12月17日、「軍隊の兵士に肉を食べさせたい」と嘆いたことがあった。その願いは実現できただろうか。
国連は2月21日、北朝鮮から「今年はコメ、小麦、ジャガイモ、大豆などの食糧の生産量が140万トン不足する見通しだ」という説明を受け取り、食糧支援の要請があったことを明らかにした。当方は金正恩氏の体形を思い出し、「北朝鮮は国際社会に食糧支援を求める資格があるだろうか」と首を傾げて考え出した。
当方は北朝鮮の外交官やビジネスマンと何度も接触してきたが、太った北朝鮮人を見たことがほとんどない。がっちりとした体形の北朝鮮人はいたが、太ってはいない。そのうえ、北朝鮮の国民は背が低い。背が高い北朝鮮国民といえば、バスケットボールの元ナショナルチーム選手で現国際オリンピック委員会(IOC)委員の張雄氏しか思い出せない。同氏は2メートル超えるほどの長身だ。
金正恩氏の異母兄、金正男氏が2017年2月、マレーシアのクアラルンプール国際空港で劇薬の神経剤で暗殺された後、正男氏暗殺の主犯の1人とみられる北国籍のリ・ジョンチョル容疑者(46)が連行される写真を見た。リ容疑者の目は異様に攻撃的な光を放っていたが、悲しいほど小柄で痩せていた。海外で勤務する北の外交官やビジネスマンは一応エリートだ。3食は保証された身分だが、それでも彼らの多くは痩せている(「北の海外駐在者はなぜ痩せるか?」2017年2月20日参考)。
特権階級の北朝鮮国民が太れないのは、食糧不足というよりストレスが原因だろう。国連に出向していた北朝鮮人はストレスのためか、胃腸が弱かった。国連食堂で食事していたが、常に薬を飲んでいた。
北朝鮮の国家元首、金永南・最高人民会議(国会に相当)常任委員長 の家族は超エリートだが、その息子の1人、金東浩氏はウィーンの国連機関に一時出向していた。彼は175センチを超えた好男子だったが、痩せていた。彼などは栄養不足ではなく、明らかにストレスが主因だ。
痩せている北のエリートたちに共通している点はタバコを吸うことだ。東欧の共産政権時代、当方は多くの愛煙家と出会った。彼らは当時、反体制派活動家として活動し、ある者は長い間、刑務所や収容所生活を余儀なくされてきた。
その1人、チェコスロバキアの反体制運動「憲章77」のリーダー、バツラフ・ハベル氏(元大統領)は愛煙家で有名だ。同氏は5年余り刑務所生活を体験した。また、中国の著名な反体制派活動家の魏京生氏は文字通り、ヘビー・スモーカーだ。休みなく紫煙を上げていた。当方がウィーンで同氏とインタビューした時も、煙の隙間から同氏の表情を追ったほどだ。同氏は通算18年間、収容所生活を送った。ハベル氏や魏京生氏にとって、タバコが唯一の慰めだったという(「紫煙の行方」2006年11月30日参考)。
一方、北のエリートの場合、タバコはストレス解消の手段ではないか。ちなみに、北の特権階級に所属する幹部で健康を考えて禁煙している人物がいると聞いたことがない。
ハノイの米朝首脳会談でトランプ米大統領との会談に臨む前、金正恩氏がタバコを吸っているところをCNNが写していた。彼はヘビー・スモーカーで有名だ。多くの政敵を粛正してきた彼はストレスが溜まっているのだろう。ひょっとしたら、金正恩氏の肥満はストレスが原因かもしれない。ストレスが原因で痩せる人と太る人が出てくるというが、金正恩氏は後者かもしれない。
話は戻り、北への食糧支援問題だ。国際社会は独裁国家のために食糧支援する必要はあるだろうか。食糧不足は独裁者ではなく、国民だ。国民は独裁者の下で苦しんでいるから、食糧支援は人道支援だ、という声が強い。多分、それは正しいが、国際社会の食糧支援が国民の手に届く保証はない。国際社会の食糧支援が北人民軍の手に渡ったことがあった。食糧支援が国民の手に届いているかを検証する国際監視チームの派遣が大切だ。
当方は一つのアイデアがある。金正恩氏が130キロのままならば食糧支援をしないが、金正恩氏が減量し、5キロ減量するたびに国際支援を実行し、100キロを割った場合、100%食糧支援をするという案だ。金正恩氏の健康にとってもいい考えであり、国民も痩せてきた金正恩氏の姿を見れば少しは共感を覚えるかもしれない。130キロの金正恩氏をみて、3食も十分食べれない国民が共感するだろうか。そんなことは絶対考えられない。
金正恩氏の「体重問題」と「食糧支援」をリンクさせることで、両者はウインウインだ。国際社会も食糧支援が効果的に利用されれば、更に支援したくなるはずだ。
この案は対北食糧支援問題にだけ当てはまるのではない。北朝鮮と交渉する際の公式だ。換言すれば、独裁者自身が痛みや犠牲を共有する時に限り、国際社会は独裁国家・北朝鮮を支援するという公式だ。北側が頻繁に主張してきた「行動対行動」の原則だ。
金正恩氏が忘れてならない点は、これまで何度も北に騙されてきた国際社会は北の約束をもはや簡単には信じない、ということだ。金正恩氏が越えなければならないハードルは父親の故金正日総書記時代より高いのだ。
金正恩氏はハノイの米朝首脳会談で制裁の完全な解除を要求、トランプ側がそれを拒否したことで2日間の米朝首脳会談は共同声明や合意文書に著名することなく終わった。少々、予想外の展開だったが、上記の対北支援の公式からいえば、北側の非核化の進展具合が制裁解除を得るためには不十分だっただけだ。
いずれにしても、制裁解除問題も食糧支援も全て上記の公式に基づいて実行されれば、国際社会は大きなやけどを被ることはないだろう。これを「ハノイの教訓」と呼ぼうではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。