沖縄問題:激しい運動だけで本土の目を覚ませるのか? --- 井上 孝之

沖縄では住民投票が行われ、投票率は5割を超え、辺野古基地埋め立て工事「反対」は7割に達しました。現地では「盛り上がっている」ようですが、本土ではさほどとは言えません。本土の人間(少なくとも私)は冷めた目で見てます。その理由を私なりに考えると以下のようになります。

辺野古基地近くの米軍施設前での反対運動(昨年9月、編集部撮影)

1.  迷惑施設を受け入れているのは沖縄だけではない

沖縄の人たちは「自分たちだけが米軍基地を受け入れている」と思っているかもしれませんが、本土の人たちは「迷惑施設を受け入れているのは沖縄 県だけではない」と考えます。

迷惑施設の代表格として原子力発電所があります。原子力発電所の場合はひとたび事故が起これば、一つの県が丸ごと住めなくなるなるほどのインパクトがあり、放射性物質の拡散状況次第では数百人や数千人レベルの死者が出ることもあり得ます。たとえ事故のレベルが小さいさくても、その県で生産された農作物は風評被害で売れなくなり、その県に住む人には発がん率が上がる、奇形児が生まれる可能性が高まる等の心無い偏見にさらされます。

これに対して、沖縄県で米軍機が人口密集地に墜落しても原発事故ほどのインパクトはないと思われます。それなのに、沖縄県が原子力発電所を受け入れている県よりも補助金等で優遇されることは妥当なことでしょうか?

迷惑施設を受け入れている県が連携して建設的な提言を行えば、意味があるように思われますが、沖縄県はそのようなことはしません。私は「沖縄県は多くの米軍施設を受け入れている『唯一の』県である」というブランドを保持したいため考えていますが、それは邪推でしょうか?

2. 民主主義を破壊しているのは沖縄県民

住民投票の結果は日本政府とアメリカ政府に通知されるだけで、それを実行するための具体的な計画もありません。政府は今回の住民投票の結果を無視するつもりなので、実質的には何も起こらずに混乱だけが残ります。つまり、「沖縄の民意は実行されなくても問題は起こらない」という事実だけが残り、今後は沖縄県民がどのような民意を示しても無視されるだけです。結局、今回の住民投票は「民意は無視されても問題ない」という実例を沖縄県民が税金を使って作ったことになります。

3. 十分な金を受け取っている

沖縄県は米軍基地を受け入れることの対価としての補助金を受けています。当然のことながら「迷惑を受けていることの適切な対価」としては問題ありませんが、「正当な対価」を超えて過剰に受けとれば、それは社会正義に反します。沖縄県民がたくさん補助金を受ければ、その分だけ本土の弱者が受け取るお金やサービスが減ります。

国の予算は、出せる金額の大体の総額は決まっていて、その配分を決めていくことになるので、あるところに多く出せば他のところに出せる金額は減らさざるを得なくなります。最近、問題になっている幼児虐待のように「十分に予算が付けば対策が講じられる」問題は多くありますが、沖縄県への補助金を多く出せば、それらの問題への対策費用は結果的に減ってしまうことになります。そのようにして捻出された沖縄県の補助金は受けている迷惑に対して妥当な金額でしょうか? できれば沖縄県民自身で検証してもらいたいと考えています。

4. 沖縄県民は本当に困っているのか?

沖縄に旅行すれば、基地の近く以外はただののどかな田舎であることが分かります。基地周辺が騒音や米兵の犯罪等で困っているのは理解できますが、沖縄県全体としてどのくらいの実害を受けているのでしょうか?このようなことは本土の人間が沖縄に旅行のときに受ける印象なので、沖縄の皆さんからの納得できる説明を期待します。

5. 安全保障政策についてどのように考えているのか?

日本の安全保障政策の根幹の部分に異を唱えているのだから、それに対する対案を示すべきですが、全く提案がありません。本土の人間は沖縄県には何の対案がないことを知っています。

今のところ日本は「平和」と言える状況です。その理由の一つに安全保障政策がうまく機能していることが挙げられますし、その安全保障政策のなかには沖縄に駐留している米軍も含まれています。平和はあたり前のように存在していますが、それは目に見えないところで多くの人の努力によって実現しています。目に見えていないところで多くの人が努力しているのは無視して、表面的な問題にだけについて騒ぐのはただのバカです。そんな人たちの思いを真剣に受け止める必要があるのでしょうか?

6. 反米は許せるが親中は許せない

米兵の犯罪や軍用機からの落下物で不安を感じているのは事実なので、アメリカに対して悪い印象を持つことはやむを得ないこと思います。また、騒ぐことで犯罪や事故の抑止効果があることも事実です。

しかし、勢い余って、反米運動が中国を利するレベルになれば話は別です。そもそも米軍基地が沖縄に配置される理由は中国の脅威に対抗するためのものでもあります。その効果を低減するような活動をしてしまえば、米軍はその効果を維持するためにさらに軍隊の規模を大きくする必要があるので、沖縄の人たちにもデメリットが大きいように思われます。

それに、中国の方がサンゴの埋め立てを含む環境破壊や人権蹂躙についても大規模に行っているので、アメリカに対して批判していることをもっと大規模に行っている中国の利益になるような活動をすれば、単に何も考えずに反対運動をやりたいだけの人たちと思われても仕方がないと思います。

最後に

全体的に沖縄の方々にきつい書き方になってしまったところはあったと思いますが、私としては本土の人間と分かり合うための論点を整理したつもりでいます。沖縄の方々の反論を期待しています。何らかの主張をする場合には、その主張を正当性を訴えるだけでなく、主張が通ったときにどのようなことが起こるのかについての分析も示す必要があると思います。

沖縄県の皆さんは米軍基地の移設予定地の埋め立てについて反対の主張をされましたが、その主張が通ったときには、日本は良くなるのでしょうか? 沖縄県の皆さんの分析を分析を教えていただきたいと考えています。あと、この文章を書きながら思ったのですが、「本土の冷めた目」を変えていくためには、「激しい運動」よりも「論理的な説明」の方が効果的のように思われます。

米軍基地に限らず、自衛隊の基地、原子力関連施設、空港・鉄道・高速道路の騒音系施設、ごみ処理場、有害物質を扱う工場、刑務所、これに最近では児童相談所も含まれる迷惑施設を周辺の住民が受け入れてくれているから社会が成り立っているので、沖縄の方々にはそれを理解しないで騒ぐだけの人にはなってもらいたくないと考えています。

私が考える「よい社会」とは、迷惑施設の建設は避けることができないので、社会全体で迷惑のレベルを最小化する努力をすることと、迷惑を受ける人が迷惑のレベルに応じた適切な補償を受けることです。沖縄の問題ではこれは実現されているのでしょうか?

井上 孝之 
沖縄に2回旅行に行ったことのある本土在住の技術系サラリーマン