さすがの朝日も自虐より人権か? 米国務省人権報告報道

高橋 克己

3月13日に米国務省が発表した2018年版人権報告書の新聞各紙の報道振りを比べてみた。同じソースを各紙がどう角度を付けるか、特徴を探るべく先ずはその見出しと記事の配信者を以下に並べてみる。

2018年版人権報告書を発表するポンペオ長官(国務省YouTubeより:編集部)

読売 米、ウイグル族抑圧非難 「80~200万人拘束」指摘 人権報告書
(ワシントン=大木聖馬 2019/03/15 05:00)

朝日 「中国の人権侵害は桁外れ」 米国務省が報告書
(ワシントン=高野裕介 2019年3月14日11時32分)

産経 「中国、ウイグル族収容を強化」 米国務省が人権報告書
(ワシントン=住井亨介)2019.3.14 08:21

毎日 米人権報告書「日本、ヘイト増」国務省指弾
(ワシントン共同)2019年3月14日東京夕刊

東京 日本のヘイト増加傾向に懸念 米国務省、外国人差別も
(ワシントン共同)2019年3月14日 07時12分

共同 日本のヘイト増加傾向に懸念 米国務省、外国人差別も
(ワシントン共同)2019/3/14 07:12

NHK NEWS WEB 米 世界の人権状況で報告書「中国の人権侵害は桁外れ」
2019年3月14日 7時01分

こうして眺めてみると共同と毎日と東京の「日本のヘイト増加」の見出しがいかにも異彩を放つ。それに毎日と東京のこのトホホ振りはなんだ。他の三紙がそれぞれワシントン特派員の記事なのに両紙は共同通信の配信の横流し。きっと原文にすら当たっていないのだろう。

さらに哀れを誘うのは毎日だ。よせばいいのに見出しだけをチョコっと弄っている。その点、丸写しの東京にむしろある種の潔さあるいは開き直りを感じる。しかも毎日のネット版は以下の通り、最後の一行だけが有料になっていて読むことが出来ない。

【ワシントン共同】米国務省は13日、世界200以上の国・地域を対象にした2018年版の人権報告書を発表し、日本でヘイトスピーチが増加傾向にあると指摘した。日本に暮らす外国人や、外国人を親に持つ市民らに対して雇用や住宅確保、教育などで差別があるとも言及し、懸念を示した。報告書は、日本のヘイトスピーチ対策法に罰則規定がないため、検察官が名誉毀損罪を適用していることや、東京都や川崎市、京都府、大阪… (筆者注➡以下有料部分)…市といった自治体が条例やガイドラインを設けて対応に当たっていることを紹介した。

まさかそういう奇特な方はおるまいが、この後を読もうと有料登録すると続きは「市といった自治体が条例やガイドラインを設けて対応に当たっていることを紹介した」以上、ということになる訳だ。こんなことではとても全国紙とはいえまい。

事のついでに韓国紙の様子も見てみた。ハンギョレと聯合ニュースにはこの関係の記事は見当たらない。

朝鮮日報 米の人権報告書が韓国を批判「文政権が脱北者団体に圧力」
(ワシントン=チョ・ウィジュン特派員・ユン・ヒョンジュン記者)2019/03/14 23:08

中央日報 米国人権報告書「日本のヘイトスピーチ増加に憂慮」
2019年03月15日06時43分

東亜日報 米国務省、「文政府が脱北団体に北朝鮮を批判しないよう圧力」と人権報告書で指摘
(ワシントン=イ・ジョンウン特派員)March. 15, 2019 07:55

さすが中央日報と思ったら。あろうことか共同通信の記事を記事にしていた。これでは新聞記事をネタに筆者がアゴラ投稿を書くのと変わらない。他方、朝鮮日報と東亜日報は共にワシントン特派員による文政権の脱北者弾圧と北朝鮮の人権侵害に関する部分のみの落ち着いた報道振り、まともだ。

そこで朝日の話になる。見出しは読売・産経・NHKと同じ様に「中国の人権侵害」だ。いかな朝日でも中国の桁外れの人権侵害を見て見ぬ振りできず「自虐より人権に転向か?」と思った。が、そこは朝日、チャッカリ最後に次の一文が付いていた。

日本については、性的少数者のLGBTについて、自民党の杉田水脈衆院議員が「生産性がない」と雑誌に書いたことのほか、女性への差別として、東京医科大が入試の際に得点調整をして女性を合格しにくくしていたことに言及した。

東京医大の方はまあどちらかと言えば恥ずかしい出来事と筆者も思う。他方、杉田事件は杉田氏が全文を通して述べんとする趣旨と切り取り部分の騒ぎとの間に様々な論争があった。なので、朝日として精一杯の自己主張のようにもとれる。そこで杉田部分の原文はこうだ。

A ruling Liberal Democratic Party (LDP) Diet member, Mio Sugita, wrote in a July article that LGBTI persons are “unproductive” as they do not give birth to children. After the article’s release, the LDP issued a statement saying that the party aimed for a diverse society, including LGBTI persons, and admonishing Sugita. The magazine subsequently ceased publication after an extensive public backlash against Sugita and the magazine, including from the disability community and prominent writers.

与党自民党(LDP)国会議員、杉田水脈は7月の雑誌論文で、LGBTIの人々は子供を出産していないため“非生産的”であると書いた。自民党はその雑誌論文が発表された後、党はLGBTIの人々を含む多様な社会を目指しており杉田を諭したと言った声明を発表した。その雑誌はその後、杉田と雑誌に対する障碍者団体や著名作家からのものも含む大規模な反発を受け出版を中止した。(筆者拙訳)

そもそも米国務省報告は杉田事件の本質を伝え切れていないように筆者には思える。それをそのまま伝えるのも報道だろう。が、もし国務省報告が「杉田論文の一部を切り取っての魔女狩りが行われた」などと書いていたら果たして朝日はどう報じただろうか、などとつい想像してしまう。

最後に日本に関するコメントに関してNHK NEWS WEBが「報告書では、北朝鮮について日本人の拉致被害者の調査が全く進まなかったと批判した…」と報道した。

米国務省に批判されるまでもなく、この問題を無念に思っていない日本人は一人としていない。一連の米朝交渉を通じて北が圧力に弱いことが明らかになった以上、いずれ使わねばならない金と9条改正による自衛隊明記の両輪で、米国の協力よろしく拉致被害者奪回に邁進したいものだ。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。