欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act: EAA)が欧州議会で2019年3月13日に可決成立した。欧州議会からのプレスリリースを利用して、法律の内容と経済社会へのインパクトについて紹介する。
投票結果は賛成613、反対23、棄権36と圧倒的多数での可決であった。EAAは欧州の総意と見なせる。EAAの目的は障害者や高齢者の日常生活を改善し、さらなるイノベーションの扉を開くことにあるという。障害者などへの対応は負担だが、「イノベーションの扉を開く(opening the door for more innovation)」と前向きな点に注目すべきである。
この法律に基づいてアクセシビリティ対応が進められるのは、発券機およびチェックイン機、ATMやその他の支払い端末、PCとオペレーティングシステム、スマートフォン・タブレット、テレビ機器、消費者向け銀行サービス、電子書籍と専用ソフトウェア、Eコマースサービス、リアルタイムの旅行情報が提供される航空・バス・鉄道・水上の旅客輸送サービスである。デジタル経済が進展する中で、欧州がICTアクセシビリティを重視している様子が読み取れる。
一方、階段、ランプ(階段脇の傾斜した通路)、ドア、公衆トイレなど建物のアクセシビリティについては、改修が必要になるため時間がかかる。そこで、障害者にとってより利用しやすくするように、建物所有者との間に立って調整する役割が加盟国に奨励された。
公共調達についてEAAが適用されるようになるのは、欧州の企業にとって大きなチャンスである(European businesses will also have more opportunities)とプレスリリースに書かれている。それは、このEAAが経済社会にイノベーションを起こすきっかけになるからである。一方で、零細企業には過度の負担をかけない緩和規定も導入された。
EAAに基づき欧州指令が発出されることになっている。加盟国には、EAAに基づく新しい規定を国内法に導入するために3年間、それらを施行するために6年間の猶予が与えられている。
わが国は公共調達でICTアクセシビリティへの対応を重視する方向にやっと動き出したところである。わが国は欧州より10年以上遅れている。
おしらせ:ICPF主催「デジタルファースト法案セミナー」(3月29日)
情報通信政策フォーラム(ICPF)では、政府が昨年から準備中のデジタルファースト法案について議論します。なぜ、デジタルファースト法は必要なのでしょうか。また、この法律の成立によって経済社会はどのように変わっていくでしょうか。セミナーのシリーズ第1回は、自由民主党IT戦略特別委員会副委員長の木原誠二衆議院議員に「デジタルファースト法の成立を目指して」と題して講演いただきます。お申し込み、セミナーの詳細はこちらへ。