95%の人にとって長短金利逆転がどうのこうの、という話に「それで?」と思うはずです。私だってこんなものには興味を持つ予定ではなかったのです。しかし、会社を経営をし、株式市場で運用があるとなれば景気の先行きがどうなるかは興味あるところです。いや、むしろ知らなくてはいけないものです。
ところが私には水晶玉もないし、予言者もそばにいませんので自分で考えなくてはいけません。それを手助けしてくれるものが経済指標であります。経済指標には先行指標と遅行指標があります。先行指標とは景気の先行きを占うもので株式市況、住宅着工件数などが、遅行指数には雇用者数、家計消費支出といったものがあります。
その中で今日のお題である長短金利逆転は経済の先行きを占うには極めて意味があり、忌み嫌われる時とされています。昨年来、ディープな経済関係メディアではこの話題がちょくちょく出ていたのですが、ついに逆転したため、比較的一般的なニュースにもカミングアウトしてしまいました。
この長短逆転とはアメリカの長期金利、つまり10年物国債の利回りと短期金利、通常は3カ月物の金利を言いますが、の金利が逆転することを言います。一般的にお金を借りる場合、長期に借りる方が金利は高いものです。皆さんが預金をするときにも長期で預けた方が若干金利がよいのと同じです。
ところが、今は長期でお金を借りるよりも短期で借りる方が金利が高いという状況が生じてしまったのです。これはそうそうあることではなく、今世紀では2000年と2006年の2回しか起きていません。そして2001年にはドットコムバブル崩壊、2007年にはアメリカ住宅市場のピークアウト、住宅バブル崩壊から2008年のリーマンショックにつながったのは記憶に新しいところです。
では今回はどうなるか、といえば何かが破裂する公算がある可能性があるのかもしれません。何かはわかりません。潜在的にはいろいろ考えられます。アメリカも中国も欧州も英国もそのネタはあります。いや、ベネズエラのような小さな国の崩壊が世界を伝播する可能性もあります。
先日、このブログで2019年が「平坦で落ち着いた景気を維持できればいい」という趣旨のことを書かせていただきました。それはなかなか困難な道のりであるという意味でもあります。
何かのきっかけで中央銀行が対策をとらねばならない事態になった際、確実に言えることがあります。それは短期金利の急激な下落であります。これは2001年も2007年もそうでした。それこそ0.25%ではなく0.5%ずつ下げるといった対策を施すのです。
この際、株価は大幅な水準訂正を起こし、資金クランチが起きやすくなり、銀行や投資家から追加融資や出資を受けにくくなります。総弱気になり、資金の流動性は下がり、財務体質に問題があったり背伸びをしている会社が行き詰まるのが一般的シナリオです。特に今回の場合、アメリカ以外は金利の下げ余地がないため、マイナス金利が当たり前になり、銀行経営が厳しくなるケースがあり得ます。
ただ、これも比較的早く収まる傾向があり、半年から1年ぐらいの辛抱ではないかと思います。景気後退期は歴史的に見ても比較的短く、そのあとだらだらと長い景気回復期がやってくるのがいつものパタンであります。
では、このバブル崩壊はどうやって引き起こされたか、といえば個人的には人為的な引き金と「煽り」ではないかと思います。過去、記憶にあるバブル崩壊はほぼこれで説明がつきます。では今、一番経済が高揚しているところはどこかといえば案外私はアメリカだと思うのです。中国も欧州もずっとドツボにハマったままで高揚感は全くありません。
アメリカの何が高揚感か、絞り込んでみると「トランプ現象」そのもののではないかと思うのです。ある意味、「トランプバブル」であります。アメリカを富ませるために減税し、アメリカ企業の海外滞留資金を国内回帰させ、株価対策を行い、中国との貿易バランスを力づくで行うといった政策はアメリカにとってを心地よい政策でありますが、一方で麻薬のように体質がマヒしてきているように見えるのです。
仮にそんなことが起きればどうなるか、ですが、私の予想はずばり、「バラバラな世界」であります。アメリカの民主党から大統領候補が続々と生まれているように一体感がない世界で自分のテリトリーを守ろうとする社会ができる可能性はあります。もちろん、TPPや貿易の二国間協定などでモノやヒトの流れが突然止まることはありませんが、協調感がない社会が生まれるかもしれません。
長短金利逆転とは恐ろしいシナリオがあり得ることは肝に銘じた方がよさそうです。そして今後、数週間の間に米中貿易協定、英国のEU離脱問題を含む様々な重要案件の様子が見えてきます。日本が10連休の時は気をつけろ、というのはそんな真っただ中に10日間も市場が動かないというまずい時期に当たるのが気がかりであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年3月25日の記事より転載させていただきました。