2014年9月26日、メキシコのゲレロ州でアヨツィナパ市の地方教員養成学校の学生43人が1968年に殺害された学生を偲ぶ集会に参加する為にイグアラ市に向かった。ところが、26日から27日に掛けての夜半、市警察と地元の麻薬組織カルテルのメンバーが学生が乗っていた3台のバスを目がけて襲撃。
バスに乗っていた学生5人が死亡、20数名が負傷したが、他に43人の学生が警察に連行されたあと失踪したのである。その後、殺害されて火葬されたという憶測が有力視されているが、その確たる証拠は現在に至るまで存在していない。しかし、イグアラ市長と彼の妻そして他警官数十人が逮捕された。
この市警察とカルテルによる襲撃で使用された武器はライフルG36 によるものだとされている。
(参照:nytimes.com:infobae.com)
このG36を生産したのはドイツのヘッケラー・アンド・コッホ(Heckler & Koch、以下H&K)社で、それが2006年から2009年に掛けて不正にメキシコに輸出されたとして、その公判が昨年5月からシュットガルトの地方裁で開始。その判決が先月2月21日に下った。
判決はヘッケラー・アンド・コッホ社に370万ユーロ(4億8000万円)の罰金が科せられ、起訴されていた同社社員5人の内の二人に対しそれぞれ22カ月と17カ月の執行猶予と8万ユーロ(1000万円)と250時間の社会労働奉仕が言い渡された。他3人は無罪となった。
(参照:elpais.com:infobae.com)
この事件を最初に告発したのは人権尊重の活動家ユルゲン・グラスリンで、それは2010年のことであった。それから公判が始まるまで8年の歳月を要したのは起訴された5人の内のひとりが元判事でロットヴァイル地方裁判所の裁判長という地位にあったことが影響していたと推測されている。彼の経歴がH&K社にとって魅力で入社したものと思われる。
(参照:elconfidencial.com)
ドイツ国防省から当初H&Kに発注したのは9652丁で、その内メキシコに不正に送られたのは4796丁だという。金額にして400万ユーロ(5億2000万円)。同社はそれがメキシコで犯罪が多発しているゲレロ、ハリスコ、チアパス、チウアウアの4つの州に配給されるというのを当初から知っていたはずだと判事は推察しているという。仮にそうであれば、本来は輸出してはいけないのである。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、兵器の輸出では世界で5位にあるドイツであるが、同政府は武器の輸出を禁止しているのではなく、戦争地域や犯罪が多発している地域への輸出は控えるように要求しているのである。しかし、輸入業者に対しては犯罪の武器として使用しないという保障をするようにとは要求してはいない。
(参照:infobae.com:elconfidencial.com)
今回の公判でも、被告側はメキシコ国防省から提出された書類には犯罪が多発している地域への配給についての言及は一切なかったと答えている。
(参照:infobae.com)
仮にG36がメキシコに送られていなければ、少なくとも冒頭で触れた襲撃に使用されることはなかったはずである。しかし、それをコントロールするのはほぼ困難である。
しかも、「ドイツ政府にとってメキシコに武器を販売するのは無責任だと分かっていても、ドイツにとって政治的そして商業的にメキシコは重要な国である。だから政治的そして経済的配慮が重要な役目を担うのである」と述べているのは人権尊重でドイツと協力関係にある法律家でメキシコの代表を務めているカロラ・ハウソテルである。
(参照:elconfidencial.com)
メキシコに続いて、ドイツはコロンビアにも同じく不正に武器を輸出したとして、その公判が2月に開始されている。
(参照:20minutos.com)
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白石 和幸 貿易コンサルタント