「令和」海外報道と国際政治の視点から考える

篠田 英朗

新しい元号の話題が華やかだ。私には出典のことなどは全くわからない。ただ、国際政治学者として海外でどう報じられたかには関心がある。どうやら報道が定まっていないようだ。

英字メディアは「令和」をこう報じた(産経新聞)

首相官邸サイト:編集部

「和」が「平和」の含意のある「調和」であることは自明のようだ。解釈論が生まれるのは「令」である。 安倍首相は、「令和」に、「一人ひとりの日本人が明日への希望と共に、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい」という願いが込められていると説明した。

それはそれでいい。世論調査でも好意的な評価が多いようだ。 だが、「令」が何なのかは、はっきりしないところはある。自民党の石破茂元幹事長がその点に指摘した、と広く報道されている。

【新元号】自民・石破氏「違和感ある。『令』の意味説明の努力を」(産経新聞)

「令」に命令の意味がある、と批判的な受け止め方では、しばしば指摘されているようだ。

外務省としては、「令和」は「美しい調和」だと説明しているということなので、「令」は「美しい」という意味らしい。ただ、この「令」の美しさは秩序だった調和だ、ということになるのだろう。

BBCは「令和は、Order and Harmony」と報じたという。(参照:Jcastニュース

この場合の「order」は、「命令」というよりも、「秩序」を含意していると言うべきだろう。たとえば、議場が騒然とした際に英国議会の下院議長が「order」と叫び続けるのは、静かにしろと「命令」しているというよりも、「秩序」を回復するように議員たちに求めているからである。(参照:英NewsDigest

「Order」は、国際政治においても重要な概念だ。「英国学派(English School)」の総帥というべき存在の国際政治学者ヘドリー・ブルの主著『アナーキカル・ソサイエティ』には、「世界政治における『秩序(order)』の研究」という副題が付されている。私も博士課程の学生としてLSE(London School of Economics and Political Science)に在籍していた頃、学部学生向けの(教授講義補助)ゼミを運営するため、ブルの本を繰り返し熟読したことがある。この場合の「order」は、具体的な為政者による命令というよりも、それらを成り立たせる根本的な秩序のことだ。

日本は、武力による平和を求めない。つまり、「法の支配」にもとづく「秩序」だ。そのような意味での「美しい調和」を求めている。

「令」に含まれているのは、否定的な意味での「命令」というよりも、「律令」の「令」としての「法」、国際社会にも通じる「法の支配」に通ずる「Rule」、つまり法の支配を基盤にした「秩序」なのではないか。少なくとも国際的には、そのような姿勢で、「美しい調和」を求める「秩序と平和」を説明していってほしい。

篠田 英朗(しのだ  ひであき)東京外国語大学総合国際学研究院教授
1968年生まれ。専門は国際関係論。早稲田大学卒業後、ロンドン大学で国際関係学Ph.D.取得。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て、現職。著書に『ほんとうの憲法』(ちくま新書)『集団的自衛権の思想史』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)、『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)など。篠田英朗の研究室