この1冊を待っていた。ウェブ連載で人気を呼んでいた、田中圭一さんの『若ゲのいたり』が単行本となり、角川書店から発売された。この連載は私も大好きで。毎回、夢中になって読んだ。今もウェブで読むことができるのだが、単行本でまとめて読みたくなった。
端折って言うならば、国民的ヒット作と言えるほど売れたゲームの開発者インタビュー集の漫画版である。『情熱大陸』『プロフェッショナルの流儀』というよりは、『ガイアの夜明け』に近いし、何よりも『プロジェクトX』(これらすべて、平成コンテンツだね)のゲーム版、現代版という感じ。
取り上げられているゲーム(コンテンツ)は『ファイナルファンタジーⅦ』『アクアノートの休日』『メカ生体ゾイド』『龍が如く』『MOTHER』『星のカービィ』『初音ミク』『プリンセスメーカー』『電脳戦機バーチャロン』『どこでもいっしょ』『ぷよぷよ』の11作品である。作品に関わった人に田中圭一さんがインタビューに行き、その開発ドラマを漫画家したものだ。
ホスト役の田中圭一さんが、ピュアに作品と開発者を愛しているのがいい。終始(途中悲しいエピソードが挿入されたりもするが)ポジティブな空気が流れている。優れたゲーム攻略本は、読者をゲームをしている気分にさせる。この本もまた、知らないゲームに関してもその魅力が伝わってくるし、さらにはその開発者と一緒に働いている気分になったりもする。
ぶっちゃけ、私はこの本で紹介されているゲームで遊んだことは1回もない。厳密には、おもちゃのゾイドには触ったことがあるが、それくらいだ。しかし、この本を読むとそのゲームをプレイしなかったことを激しく後悔した。しかも、リリースされた時期に、そのときの年齢で。
最大の読みどころは、開発者たちのクリエイター魂、企画マン魂である。何かを成し遂げたい衝動、今までにない新しいものを生み出したい想い。これがたまらない。より具体的には、ゲームのエンドロールを見て感動しているうちに「なんでオレはゲームを作る仕事をしていないんだ!」と叫ぶ『MOTHER』の生みの親である糸井重里、勤務先のセガがゲーム機から撤退した際に意気消沈する社内で「今日からは”ドリキャス(当時のセガのハード)”を売るためのソフトを作らなくていい」「大海に出られるんだ」と吠え、「任侠もの」というゲーム界の空席を発見し、社内外の反対を押し切ってヒットシリーズに仕上げた『龍が如く』の名越稔洋のエピソードなどが熱かった。
ビジネスパーソンの一人として猛反省した。なんだかんだ言って、無難な、失敗しない仕事をしているのではないか、と。既存の誰か、何かを目指しているにすぎないのではないか、と。
他の作品、開発者についても語りたいが、それはお楽しみということで。いや、前出のリンクからウェブ上でも読むことができるのだが、単行本の装丁は実に素敵だし、まとめて読むことの価値というものもある。姪っ子にもプレゼントしたくなった。漫画ではあるが、ムサビで担当している美大生向けキャリア講義の課題図書にしようかと思ったくらいだ。
春だ。フレッシャーズシーズンのこの時期に、熱い気持ちを取戻すためにも、ぜひ、手にとってほしい。
私の本もよろしくね。
編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2019年4月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。