スマートフォンが世界にもたらした影響力は経済だけではなく、生活様式やコミュニケーション手段を変えてきた点で恐ろしいほどの破壊力がありました。大統領がツイッターに呟き、瞬く間に地球上のあらゆる人に伝播させることができるのもスマホという媒介があるからです。
ところがこの数年、スマホ本体の価格はその高性能化とともに上昇し、10万円を超えるのが当たり前になってきています。今後も有機ELを使った画面で折り畳み式が発売されますし、5Gの普及を前提に新たなるハードウェアも発売されるとみられますが、一般庶民にとって高根の花となりつつあることは疑う余地はなさそうです。
日本でモータリゼーションが始まったころ、まずはオートバイ、三輪自動車、軽自動車、普通車といった具合にステップアップしていきました。供給側は更に技術革新をした高性能の自動車を次々と販売しますが、だんだん庶民の懐がついていけません。その結果、ついていけない潜在需要者は二つの選択肢を考えます。一つはステップアップをあきらめること、もう一つは今の自動車を長く乗ることであります。
スマホでも安いスマホと新型の高級スマホで何が違うのでしょうか?普通に通話機能、ネット機能、写真が取れて、チャットアプリがあれば概ね困らないはずです。私も5-6年前、日本で使う携帯として中国製の1万数千円の格安スマホを持っていたことがあります。使いづらいなどの問題はあったのですが、機能としてはまずまずで我慢できないわけではありませんでした。
この夏ごろから施行されるスマホ代金の通話部分と端末代金の分離化で何が起きるでしょうか?私はスマホの売り上げの長期凋落傾向がでると確信しています。つまり、完全分離な料金体系を示すことで消費者が持っている「端末価値の見える化」が起きてしまい、携帯端末は売りにくくなる、と見ています。
そうなると何が起きるか、といえば例えば家電量販店の1階部分は変わると思います。スマホ販売を主戦としていたスタイルは大きく変化します。「風が吹けば…」の考え方で行けば今回、思わぬとばっちりを受ける業種は出てくるでしょう。政府は国民の携帯電話への支出が高すぎる点を改善するために今回の新しい法律を生み出したわけですが、この施策が経済的に正しかったどうかは2年後ぐらいに見えてくるはずです。私は劇薬だったかもしれないと思っています。
さて、日経にはスマホ製造の雄、台湾の鴻海の傘下でアンドロイド搭載型のスマホ製造をするFIHモバイル社が追い込まれていると報じています。業績を見ると売り上げが上がるほど赤字が増える状態で受注する企業を絞るなど抜本的対策を施すとしています。
スマホといえばサムスンの牙城とされましたが、中国国内の市場占有率は1%しかありません。ファーウェイなどが力をつけているからで多分、今年前半には世界市場でファーウェイがアップルを抜いて第2位に、そしてサムスンの1位からの陥落まであと2年ぐらいではないかとみています。
これは何を意味しているかといえば汎用化、つまりコモディティとなったということであり、いよいよソフトの時代を迎えるのかな、と見ています。
日経の同じ日の記事にジャパンディスプレイの再建に関してINCJ(旧産業革新機構)から台湾、中国企業主導にバトンタッチすると報じられています。日本は製造能力において高いものを持っていたという自負があった中で中高年層にとっては一抹の寂しさがあると思います。
私はそうではなくて若い人たちが主導でハードとソフトを組み合わせた圧倒的ビジネスモデルを作り上げることを託したいと思います。スマホを使った新しいサービスのみならず、AIやIoT、ロボットなどのハードの性能を競うのではなく、それを一般社会にどう使ってもらうかの提案をするビジネスが今後は日本経済の主流になるとみています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年4月5日の記事より転載させていただきました。